私がスペインのアルコイという町でギターを教わった、ホセルイス・ゴンザレス氏はよく「右手は芸術家、左手は労働者」という言い方をしていました。だから愛好家の方達もついつい右手のことばかりに興味がいってしまいがちで、いわゆる「タッチ」に関しては一家言をお持ちの方が多いようです。左手のことに関しては既にお話しましたので、今度は右手「芸術家」についてお話しましょう。確かに、右手の具合によってギターの音色が美しかったり、汚かったりしますし、多くのギタリスト達は爪の形や長さ、そして手入れの仕方に腐心しています。しかし、その前に右手とギターの関係、あるいは「何故ギターは鳴るのか」という基本的な原理を整理しておく必要があるでしょう。
先ずギターという楽器(=音を鳴らす器具)は表面板が振動して、空気を振るわせ、音を出すということを確認して下さい。ですから表面板はとても大事です。傷つけたり、破損しないように注意です。次に、その表面板を振動させるのは「弦」である、と言うことです。さらに、その弦を振動させるのは、私達の「指」であるということです。
ですから、「弦」の振動が大きければ(=振幅が大きければ)音も大きいと言うことは明白です。では弦を大きく振動させるにはどうしたら良いかというと、指が弦を深く押し込む(〜ギターのボディー側に)ということです。その反対方向は駄目です。以下の図で整理してみましょう。(画像をクリックすると拡大されます)
くれぐれも「方向」に注意して下さい。「アポヤンド奏法」が大きくて、逞しい音がするというのはこの理由です。しかし、原理さえふまえていれば「アルアイレ奏法」でもほとんど同じ結果は得られます。このことは重要です。
次に音色について整理しましょう。一般的に弾弦する位置を、指板側にすると(sul tasto)柔らかい音に、駒の側にすると(sul
ponticello)硬くて金属的な音になるということは知られています。しかし弾弦位置を変えなくとも、弾弦角度で同様の結果を得ることが出来ます。実際の演奏ではこのテクニックを駆使して様々なニュアンスを作ります。以下に整理してみましょう。(画像をクリックすると拡大されます)
非常に概略では有りますが右手の基本的な原理を説明いたしました。これは決して複雑なことではありません。極めて単純で、誰がやっても同じ結果が得られることです。ただしこれを演奏のテクニックとして習得するには相応の練習が必要です。
合奏においてはこう言ったテクニックを確実に習得しておいていただくと、ダイナミックの幅が広がり、音色も様々に変化でき、とても面白くなるのです。勿論独奏でも同じことですが。
続く