「見かけで人を判断してはいけない」と子供の時に良く言われたものですが、しかし時には見て判断することも大事なのです。駅の階段をぴょんぴょんと飛び跳ねるように駆け登る人は「元気」なのでしょうし、呼んでも微かな返事しか返らないというのは「元気がない」か、ぼんやりしているからでしょう。滑らかにスイスイと歩く人は普段の身のこなしも優雅で静かですが、足音大きくのっしのっしと歩く人は物言いも賑やかで、豪胆な人が多いようです。
美しい旋律(メロディー)は、ただそれだけでも私達の心を魅了し、いつの間にか口をついて出てくるようになります。クラシックの音楽でもポップスでも、ヒットメロディーは必ずと言っていいほど、そう言った条件を満たしています。また優れた旋律は「美しい」という感性の面だけでなく、その美しさを際立たせるために、様々な構成の工夫、時には「仕掛け」がなされています。
Air
における旋律の要素、性格を見てみましょう。覚えやすい旋律というのは雑多な音から成るものではなく、厳選されたいくつかの音、そして特徴的な音程やリズムから生まれてきます。また途切れることのない長いフレーズも殆どの場合、いくつかの簡潔で特徴的な音の動きから出来上がっています。これを「モチーフ(動機)
mitif」と言います。
Air
は A
B C と三つの部分から成り、それぞれが「 A
=16 」「 B
=8」「 C=8
」という小節の長さになっています。「 A
」は更に「 A1=8,
A2=8」という2つの部分からなり、「 C
= A2」ですから、大ざっぱに構成は「
A B A'
」 であると理解することもできるでしょう。「 A
」には2つのモチーフがあります。(画像をクリックして拡大)
譜例1
M1(第1のモチーフ)=音はひとつひとつ滑らかに動きます。このような動きを順次進行といいます。さらにこれらは常に「上の方」をめざして昇っていきます。最初は「ソ・ラ・シ」、二度目も「ソ・ラ・シ」、そしてやっと三度目に「ド・レ・ミ」と最高の音に達します。M1
はですから「希望」とか「幸福」とか、なにかそういった暖かい気分を象徴していると受け取っていただいてもいいでしょう。mp
声高に絶叫する歌ではありません。
M2(第2のモチーフ)=第1のモチーフとは違って、音は和音の分散のように少し離れた音へジャンプします。階段を上るとき、普通に一段ずつ昇る(=順次進行)よりも、一段飛ばしや二段飛ばしで昇るほうがはるかにエネルギーを必要とします。「ソ・ミ・ソ・レ」は「三度」と「四度」という音程です。「ソ・シ・ミ・レ」は「三度」「四度」そして「二度」に落ち着きます。mf
力強く歌い上げて下さい。
前半「 A
」のセクションはですから、「希望に溢れた滑らか感情」と「今にも飛翔せんとするエネルギー」から出来上がっている、ということができるでしょう。
「 B
」で大事なモチーフはひとつです。
譜例2
M3(第3のモチーフ)=ご覧いただいてすぐお分かりのように、旋律は「ミ・ミ・ミ・ミ」と留まっています。これは「安定」や「充足」を象徴していると言えます。別な言い方をすれば「
A 」のセクションの動きはここに来て「到達した」わけです。「ミ・ミ・ミ・ミ」の和音は柔らかな下属和音「ド/ミ/ソ
CM」ですが、その次にやって来る「ド・ド・ド・ド」では二度上の短和音「ラ/ド/ミ
Am」です。2つのメロディーの表情の変化に気を付けて下さい。
後半「 A'
」では再び動きを伴った旋律に戻り、再び希望に向かって歩み始めます。
次は各パートの役割についてお話しましょう。
(藤井眞吾/2007年10月1日)
続く