よく「映画の成功の鍵は脇役にある」と言われます。つまり主人公は誰でも良いんだ・・・、脇役には実力のある演技者を持ってこようということです。脇役の仕事は、主役以上に目立つことはなく、しかしいつも最大限の表現と演技を見せる、と言う高度なところにあります。
音楽において「主役はメロディー」と考えても一向に差し支えありません。バッハのフーガではあらゆる声部のメロディー(テーマ)が主役ですから、名優総出演の緊迫した演技となります。シューベルトの歌曲では勿論歌が主役、でもピアノやギターの伴奏のサポートは極めて重要です。ギターの名曲「アルハンブラの思いで」でもトレモロのメロディーは主役ですが、よい演奏では低音のアルペジオがいつも絶妙のバランスを保っています。そう、脇役の仕事は「バランス」なのです。
《Air》では
2nd Guitar
と 3nd
Guitar がその役割を担っています。しかし「C」から「E」にかけての第1変奏では主旋律がそこはかトナく聞こえて来なければいけませんから、その役割はけっして「脇役」のそればかりではありません。「F」からは最後にかけては一層その必要が有ります。つまり《Air》では
2nd Guitar
と 3nd
Guitar が脇役のようであって、実は曲全体の半分以上では最も主要な旋律を聴かせなければいけないということです。その音量のバランスは実際に練習の中で作りあげていきましょう。
技術的な面で気を付けたいことは、第1変奏で16分音符によるスラーのフレーズが出てくるということです。これらのスラーは「そよ風」のように、あるいは穏やかな波間にきらめく「陽光」のように聞かせたいのです。決して力を入れすぎず、左手の指を真っ直ぐに、弦へ下ろすように気を付けて下さい。この時、腕や手のひらが一緒に動いてしまってはいけません。
譜例7
譜例8
スラーの基礎的な練習をしておいていただきたいのですが、このことも実際の練習でいくつか練習課題を提示してみましょう。
このように考えてみるとアンサンブルの醍醐味は、むしろ「脇役にある」と言うことがお分かりいただけるかと思います。私は長い音楽経験の中で、演奏するときも、そして作曲するときも、これらの脇役達に以下に沢山の、そして充実した仕事を見つけ出すことができるかということに、慶びを感じています。
次回は 4th
Guitar について考えてみましょう。
続く