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《続・独習者のためのステップアップ講座》
by Shingo Fujii
guitarstudy

shingoCHAPTER 9.
ギターは本当に 《小さなオーケストラ》なのか?

  この連載全体の中で、私が最もお話ししたかった事というのは、何点かあるのですが、この第9章で書いている事はその中のひとつです。技術の習得をするには、それが何のためであるのかと言う「目標」や「方向性」の自覚が不可欠です。ただし、テクニックと言うものを、100m競争の優劣のように考えている人には、縁のない話でしょう。それだけに、テーマは広く、本来ならもっともっと説明しなければいけない内容なのですが、繰り返しお読み頂いて、要点をご理解頂ければと思います。

(2012年7月3日)

9-1
9-2

 

 

第1節.「多彩さ」

 前回までは主に右手のテクニックについて、「音量のコ ントロール」と「音色の変化について」勉強してきました。どちらの要素も「大きな変化」を作れること、そしてそれ を「確実にコントロール」できることが大事です。

 練習の仕方を説明します。

 ①最初はあなたが「普通の強さ」と思う音を出してくだ さい。これが「基準」となります。基準ですから、常に一 定でなければいけません。もしも一定の強さで弾けないと したら、それはあなたのテクニックに問題があるというこ とです。そういう人は「第7章 - 第2節 音の大きさは弦の振動の大きさ」をもう一度読み返してくだ さい。

 ②次に「より大きい音」と「より小さい音」を出してく ださい。基準に対して「より大きい」「より小さい」とい うだけで充分です。しかし、これも一定の大きさを維持 してください。一定の変化の幅を確実に再現するためには 「指先がどれくらい弦を押し込んでいるか」という距離感 をよく記憶することが重要です。決して指の力(ちから) を意識してはいけません。ここまでが確実にできれば、この練習の90%は達成できたと言えるでしょう。以上のこ とを図で整理してみましょう(図9-1)。

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 ③次に「最も大きい音」と「最も小さい音」を出してく ださい。ただし大きな音だからといってベシャンと潰れて 汚い音になってはいけません。弦を大きく振動させすぎた り、爪を弦に引っ掻けてしまうと、このような汚い音にな ります。また小さな音だからといって聴こえなくなっては いけません。はっきりと聴こえる、小さな音です。なんだ か矛盾しているように思われるかもしれませんが、小さな 音は聴き手に「聴こう」とさせなければいけません。つま り、とてもきれいな音でなければいけないのです。きれい な音はどんなに小さくても人間は耳をそばだて、聴こうと するものですから。

 ④そして応用です。最大の音と最小の音の間で、色々な 場所に基準の音を設定します。そしてそこから「より大き い音」と「より小さい音」を出してみます。以上のことを 図で整理してみましょう(図9-2)。

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 最後にここで覚えた指の動きの感覚を、例えば「1オクターブのスケール上行/下降」しながら確実に「上行= クレッシェンド/下降=デクレッシェンド」、また、その 逆で「上行=デクレッシェンド/下降=クレッシェンド」 ……と練習してください。
 クレッシェンドをする場合は「次の音は必ず少し大き な音でなければならない」、デクレッシェンドをする場合は「次の音は必ず少し小さな音でなければならない」とい うことを忘れないように。これは当たり前のことに思えま すが、その当たり前のことを本当に確実にできるかを確か め、できていなければ、できるようにして下さい。より細やかな音量のコントロールです。この練習は必ず「一定のゆったりとしたテンポ」で行なうこと。アチェレランド(加速)やリタルダンド(減速)をしないように気をつけて。

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 ここまでの練習が理解できた人は、同様の考え方で「音色の変化」についても練習しなさい。やり方が解らないと言う人は「第6章 記憶と理解」から「第8章 音色-その2」までをもう一度よく読んでください。変化させる要素が「弾弦する位置の変化」と「弾弦する角度」と2つありますので、気をつけて。これが完全にマスターされれば「弾弦する位置をまったく動かさずに最大限の音色の幅を得る」ことや「弾弦する位置が変わっても音色がまったく変わらない」という奇妙なコントロールができるはずです。もっと具体的に言えば「指板 の上で(sul tasto)硬い音を出す」ことや「駒寄りで(sul ponticello)柔らかい音を出す」ことが可能となります。
 一体そんなことができて何になるのだろう、と思われるかもしれません。……そうです、何の役にも立たないかもしれません。普通に「柔らかい音は sul tasto」で「硬い音はsulponticello」で出せればそれで良いのかもしれません。しかしそう割り切ってしまう前に、今あなたが試してみたすべての「音色の変化」をよく記憶し、聴き 比べてみてください。音色をコントロールする技術を完 全に習得すれば「指板の上で(sultasto)硬い音を出す」ことができると言いましたが、その音は「駒寄りで(sul ponticello)出した硬い音」とは何かが違うはずです。同 様に「駒寄りで(sul ponticello)柔らかい音」は「指板の 上で(sul tasto)出した硬い音」と何かが違うはずです。似てはいてもニュアンスが違うでしょう。つまり音の表情 がより多彩になってくるはずです。何より大事なことは私たち自身が、ギターから発せられる音の微妙な変化を敏感 に感じると言うことです。

 さて練習はこれで終わりではありません。ここでは「音量の変化」と「音色の変化」を個別に解説しましたが、最後の仕上げはこれら2つの要素を同時に行なってみることです。私たちはさらに多彩なギターの音に巡り会うことで しょう。