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《続・独習者のためのステップアップ講座》
by Shingo Fujii
guitarstudy

shingoCHAPTER 6.
記憶と理解

  ここまでの(第6回までの)連載で、私の考えの「テクニックに関する事」と「音楽に関する事(〜練習の考え方)」の基本となる事を全てお話しするつもりでした。また実際、そうしたと思うのですが、今読み返してみると、必ずしも完全ではないし、特に「テクニックに関して」はもう少し具体的な練習方法の説明が必要だろうし、「音楽に対する考え方」はいささか誤解を生む可能性があると感じています。それを追記しながら補っていこうと思います。

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第1節「記 憶」

 私たちが何かの作品を演奏するためには「楽曲を理解し記憶する」ということがいつも重要です。先生に「次のレッスンまでに、暗譜で弾けるようにして下さい」言われることがありますね? 暗譜しようと思わなくても長年弾いている曲は、いつの間にか諳(そら)んじて弾けるようになっていることがあります。しかし、なかなか曲が覚えられないという場合もありますし、「なぜ暗譜で弾けなけりゃいけないんだ!」と先生の指示が腹立たしく思われる場合もあるでしょう。

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もう一度考えてみましょう、「楽曲を記憶する」ことは本当に必要なのでしょうか?

 私の答えは「NO」です。重要ではありますが、必要ではありません。楽譜を見ながらであろうが、暗譜であろうが、要はその音楽を完全に、そして上手に弾けるなら、どちらでもいいことなのです。この考えは独習者ばかりでなく、ギターを勉強している多くの方々に、何故なのかを理解しそして実践できるようになっていただきたいと思うと同時に、プロの演奏家を目指している若い人達には必須の能力である事を断言しておきたいと思います。
 誤解を避けるためにもう少し説明を加えましょう。
 私は学生時代最も苦手な科目は「歴史」でしたが、それは年号が暗記が出来なかったからです。しかし最近になって音楽に関連した様々な年号はその史実とともに覚えられるようになりました。関連する作曲家の肖像や音楽が記憶を支えているからです。いわゆる「丸暗記」というのには限界があります。覚える量にも、そしてそれを応用する事にも限界があります。ギター曲を「指使い」のみで覚える事は大変危険です。最大の理由は「音楽の理解を怠る危険がある」ということと「ひとつの音が思い出せないと、次が出て来ない」ということがあるからです。ですから楽曲を丸暗記しようとする事はあまり意味のある事ではありません。
  なめらかな演奏をするためには勿論「すぐれた指使い」をみつけ、習得し、記憶しなければなりませんが、それは記憶すべき事の一部でしかありません。曲を覚えると言うのは「その音楽を理解し、その理解を記憶する」事に他なりません。

 

 以上のことは、まさに私が信じている事でこの考えは今もまったく変わりありません。しかしあとになって、また自分自身の生徒や様々な状況でのレッスンの経験を通じて「暗譜をする必要はないんだよ」と聞こえるような言い方は極めて危険であると、反省をしております。
 特に若い人達、あるいはギターの勉強を始めたばかりの人達は、先生から出された課題の曲は次のレッスンまでに暗譜で弾けるようにしていくというのは、上達するための必須条件です。と言いますと「なんだ、さっき言っていた事と正反対じゃないか!」と激怒されるかもしれません。私が言いたいのはどちらも本心で、

「音楽を勉強していくためには、指が覚えるまで練習して、暗譜出来た曲しか弾けない」

・・・というのではだめですよ、ということと同時に

「ギターを早く上手になりたかったら、どんな曲でも早く暗譜で弾けるようになりなさい」

・・・という二つの事です。これは矛盾はしておりません。解り易く言えば、本当は両方のことが出来なければ行けないという事です。もっと噛み砕いて言うと、

「初見で結構曲が弾けるけど、暗譜も早い」

・・・というのが一番いいのです。するとまたまた聞こえてきます・・・「そんな事言われなくても解ってるわい!それが出来ないから苦労してるんじゃないか!」と。しかし、本当に解っていますか? それが出来る事が大事だと解っていても、それじゃあそういう能力を身につけるためにどんなことを勉強し、どんな訓練をしなければ行けないかを? 私はそのことを説明しているのです。現実的なことを言えば、レッスンに通っている人達は勿論、先生から出された課題がまず暗譜で弾けるようにならなければ、技術的な注意も、音楽的な注意も、弾くのが精一杯でそれらに気を配るということが出来ない・・・、というのが現実です。特に中級くらいまでの方(〜ご自分を中級と感じてられる方)までは、このことを肝に銘じた方がいいでしょう。楽譜を見ながら何度も何度もたどたどしく弾いていれば、やがて先生も「・・・まあこの曲はこの辺までにして、次の曲に行きましょうか?」となってしまうのだろうと思うのです。
 ある程度上級になった時、あるいは上級でなくとも「プロの演奏家になるんだ」という人達は、相当量の音楽を勉強しなければなりませんから、本編でお話ししたような「暗譜はしていなくても楽譜から音楽を理解し、演奏をする」という能力がなければ、到底及ぶものではありません。そのためには音楽全般に関する理解や知識、そして訓練が必要ですが、独学をされている人達こそ(・・・あなた達は30歳になるまでに国際コンクールで優勝して・・・、音楽学校のディプロマもとって・・・、有名になって・・・、仕事が来るようになって・・・、生計が立てられるようになる・・・、という必要はないのですから)、どっしりと構えて、たとえ時間はものすごくかかっても、楽譜を読む能力をもっと身に付け、そしてご自分がどのように演奏するべきかを考えられるようになることこそ、より音楽を楽しむ近道であり、より豊かな音楽生活が待っている、・・・と私は心の底から思うのです。そのことの第一歩とも言うべき練習方法が次でお話しする、第2節「理解」の課題6です。

 

Chap. 6  
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