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《夜想曲 ~鳥の歌による》
Nocturno sobre “El Cant dels Ocells”
by Shingo Fujii

Nocturno sobre "El Cant dels Ocells" para 3 guitarras
~「夜想曲~鳥の歌による」ギター三重奏のための

fdsa1.夢へのプロローグ

富川君、大島君、栗田君へ

  この曲で「第1楽章」という呼び方は適切でないと思いますが、まず最初の楽節は「1.夢へのプロローグ」というタイトルにしました。それはこの曲全体が「夜想曲」というタイトルの通り、人間の営みが全て幕を下ろした夜の時間の出来事、あるいは「夢」の中を描いたものだからです。タイトルは全てスペイン語から発想しました。ですから「Prologo del Sue撲」は「夢への導入」とか「入り口」というニュアンスです。
 先にお送りした「モチーフ」でも明記したように、「鳥の歌」の性格を決定づけているのは、なんと言っても前半のメロディーの「旋律線」です。「A」は「短音階に完全四度下の属音から」はいる音形、「B」は「短三度下降、二度上昇、短三度下降」という「和声的音階から来る独特の音形」、これら二つのモチーフが「1.夢へのプロローグ」では提示されます。
 まず 2nd guitar(富川君)が執拗に繰り返すアルペジオは「B」そのものです。そして 1st Guitar と 3rd Guitar(栗田君と大島君)はそれを優しく見守るかのようにモチーフ「A」そのものをハーモニックス奏法で重ねます。
 続く2nd guitar(富川君)の「1小節」の独奏は、この曲全体である重要な意味を持っています。「鳥の歌」という音楽の性格が「一人で歌う」という運命のようなものをここで表します。続く2小節間で 1st Guitar と 3rd Guitar(栗田君と大島君)の伴奏を伴いますが、これはいわば「孤独な鳥の歌」が見果てぬ夢である「仲間を伴った歌」になる暗示でもあります。このことは曲全体で、いつも大事な概念です。結局最後に「歌」は一人になって終わるわけですから。
 明確な調性はありませんが、あえていうならば「ホ短調」と「イ短調」をここで提示します。そのほかにも、ほかの楽章で使われる「ニ短調」や「ト短調」「ホ長調」などの調(あるいは和音)を、つかの間提示することがここでの目的です。後半に聞かれる「3/8」の Allegro は言うまでもなく「パッサカリア」へのプロットです。
 つまり「1.夢へのプロローグ」は、ほとんど完全に曲全体のモチーフの提示や、要素の可能性、起こるであろう出来事の複線を霧の中に隠したように無造作に置き去りにする、まさに「導入=プロローグ」であることを、おわかりください。アンサンブルは少し難しいかもしれませんが、いくつかの注意すべき点、あるいは音楽を何度か聴いていくと、むしろ自然に演奏できるようになるはずです。これは皆さん三人にとっても「プロローグ」であるかもしれません。
 夢を見る人はかならず、あとになってからそれが「夢」であったことを知ります。演奏者は、しかし今から始まる音楽が「夢」であると聞き手に悟らせてはいけません。それはあなた達、三人の間だけの秘密なのです。

藤井眞吾(4/29)


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