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“カルカッシのギター教則本について”

最後に

 ここまで「カルカッシギター教則本 Methode complete pour la guitare, Op.59」について述べてまいりましたが、この本は三部構成で、私は第1部についてのみ私見を述べました。なぜそれ以降(第2部、第3部)について考察しないのかという理由をここに述べて、筆をおきます。

 この教本はカルカッシによる非常に充実した教本であり、曲も初学者のことを十分に考えて作曲されていると言えますが、ただしそれらは本当に「初めてギターを手にする人たちにとって第一歩」と成り得るレベルかというと、それにはやや難しいと私は考えます。しかも音楽的内容はハ長調から始まりニ短調に至るまで、あまり変わりはありません。調性ごとに勉強するというアイデアは評価できますが、決してギター特有の調整の性格にまで言及しているとは言い難く、第1部を終えるまでに興味を失う危険は否めません。それは私の正直な感想であり、意見です。

 第2部では様々奏法の解説があります。しかしこれらの奏法を習得するにはここで述べられているような曲では不十分であり、私は音楽的範囲を広げることによって、スラーや装飾音などの勉強に着手したほうがいいだろうと思います。またここで初めてスラー奏法の解説を始めていますが、第1部の曲でもしばしばスラーによってアーティキュレーションを考えるべき場合がありましたから、むしろそれに触れずにここに至っていることは、教育という視点からは賛同できないことです。

 第3部に関しては曲の規模が大きくなり、コンサートなどでも(上手に演奏されれば)十分に聞き応えのあるようなものもありますが、それではそれらの第3部にある曲が、第1部、第2部と勉強を進めたからといって、弾けるようになる要素が準備されているかというと、決してそうではありません。

 カルカッシが、当時急増していた「愛好家」のために最新の注意を払ったであろうと思われるこの教本に関しては、ある程度の評価はできるものの、現代にあってはすでに不足の点が多々感じられ、また初めてギターを手にする人にとって、これは最善の出発点であるとも思えません。第1部のいくつかの曲は教材としていいだろうと思いますが、ここを満遍なく勉強するという意気込みは持つ必要がないでしょう。むしろ第1部の何曲かが弾けるようになったのなら、すぐにでも他の作曲家の作品、他の時代の作品に目を向けるべきだろうと思います。あるいはカルカッシの作品60の練習曲集は非常に優れた練習曲集で、例えばそういった曲にに移行するというのも、ひとつの選択肢でしょう。
  この本を最初から最後まで勉強することを必ずしも無意味だとは言いませんが、決してそうしたからといって何かの素養や技量が保証されるのだと思わないように、申し上げ、本稿を終わりとします。

藤井眞吾/2023年1月/京都

carcassi

 

 


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