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“カルカッシのギター教則本について”

sankaku
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カルカッシの
ギター教則本
について
1. はじめに
2. ハ長調
3. ト長調
4. 二長調
5. イ長調
6. ホ長調
7. ヘ長調
8. イ短調
9. ホ短調
10. ニ短調
11. 最後に
更新/ 2023年3月1日
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ト長調

【Andantino mosso】

 ここから「ト長調」、シャープが一個つきます。ギターを始めたばかりの時は調号にシャープやフラットがつくと難しくなったと思い込んでしまう場合がありますが、決してそうではありません。ハ長調の場合は主要三和音の三つの根音「ド」「ソ」「ファ」のいずれも低音三絃にありませんが、ト長調の場合のそれらは主音の「ソ」は③弦に、属和音の主音「レ」は④弦にあります。ニ長調やイ長調となるとそれらの開放弦はさらに増えます。主要な和音を開放弦で弾けるということは、演奏がしやすくなる場合が多いということです。ギター曲にニ長調やイ長調が多いのはそういう理由です。

andantino

 さてこの第1曲は Andantino mosso です。Andantino は少し Andante でということ、つまり「歩くような拍節感を少し持って」ということですが、mosso ですから「少し早足」になります。前半では何度も④弦の「レ」を親指で弾きますが、同時に各小節の最後の白の裏で休符があり、ここはアウフタクトの旋律の開始されるタイミングですから、親指で正確に消音をする練習をしましょう。後半は下属和音から開始しますが、旋律と低音の音程が広がり響きもゆったりとしていきます。「ド#」になることによってト長調の属和音の存在感が一層強く感じられ、最後の終止がさらに気持ちよく感じられるはずです。

 

【Valz】

 第2曲は「ワルツ」。アウフタクトの「レ」は旋律に属すると考えるのが自然でしょうが、そのあとの「レ→ソ」と完全四度跳躍する音の繋がりは、たとえ初心者でも看過してはいけないことです。しかし易しくはありません。
 私がこの教本を生徒のために使いたくない理由の一つはそういった点にもあるのです。曲自体は「優しい」そうでありながら、音楽的なこと、フレージング、アーティキュレーション、テンポ、ダイナミックスなど初心者には課題が多すぎます。もちろんそういうことを「まあ、いいじゃないか。難しいことは言わずに、とりあえず指が動いて音を出せるようになれば!」と考える人がいるかもしれません。またそう考えて教材として使っている方もいらっしゃるかもしれません。

valz

 しかし私にはどうしてもそのようには思うことができません。音楽的要点を無視して、あるいは知らないまま、音を出すことだけで演奏を習得していくと、後になって未解決で山積した音楽的課題に押しつぶされることになりかねません。事実、ギターで演奏される演奏の実に多くにそういっった問題を感じるのは、今も変わりありません。それの原因は演奏法の習得の時に、技術がどういった音楽と関係しているのかを学ぶことが十分になされていないからだと思います。

 曲の構成はハ長調のワルツととてもよく似ています。真ん中の部分のアルペジオに注意しましょう。先にお話ししたように、右手親指の使い方が重要です。三つ目の部分は優雅で美しいです。最後から5小節目に珍しく「倚音」が聞かれます。美しく!

 

【HOPSER】

hopse

 これもハ長調の第3曲と同様にアウフタクトから始まります。HOPSER または SAUTEUSE という舞曲ですが、「飛び跳ねる」というような意味で、二拍子の軽快な曲です。ここで少しこのリズムの練習の仕方について考えてみましょう。

 まずゆっくりしたテンポでメトロノームを鳴らします(40〜60)。手を叩きますが、拍子は考えず、ひたすらメトロノームの音と手を打つ音が「同時に鳴る」ように、しばらくの間(少なくとも1分以上)続けます(練習-1)。

1

 練習-1を馬鹿馬鹿しいと思ったらあなたは先に進むことができないでしょう。集中力を保つこと。時を刻む感覚が自分の体の中に生まれてくるのをじっと待つこと。次は「二拍子」を作ります。音二つごとに「強・弱」を作ります。これもしばらく続ける(練習-2)こと。

 練習-2では手を叩くと同時に「イチ(=1のこと)」「ニィ(=2のこと)」とはっきりとした声を出しながら実践。歯切れ良くするために「イッ」「ニッ」と発音してもいいでしょう。やがて二つの音(=2拍)が一つの「周期」に感じられるでしょう。言い忘れましたが「練習-2」で手を叩くとのは「赤丸で囲んだ」音だけ、つまり一拍目だけです。2拍目は声だけ。次の「練習-3」ではそれを逆に、一拍目は声だけ、2拍目で手を叩きます。一拍目の声はアクセントをつけて、大きな声で。

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 練習-4では「拍と拍の間のタイミング」を見つけます。つまり「八分音符」です。この時「ト」と声を出します。これはちょうど何かをする時の掛け声「せ〜の」の「の」に相当します。

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 練習-5では「ト」で手を叩きます。声は「拍の表」、ては「拍の裏」になり、ここにきて自分の中に「二人の自分がいる」ように感じるかもしれません。メトロノームからずれることなくこれをしばらく継続します。

 練習-6はここまでの応用(発展)です。丸で囲んだ音だけ手を叩き、赤字で示したところだけ声を出します。同様な変化をいろいろに試してください。次にやるのはメトロノーム野テンポを「より早く」または「より遅く」変えて同様の課題を最初からやること。

 

 ここで述べた実践練習は Paul Hindemith の「音楽家の基礎練習」で述べられている物を基本としたものです。テンポ感やリズム感は実践しなければ決して習得できません。これらに欠点がある、とか苦手だと思っている人は必ず実践してください。話を曲に戻します。前半では旋律のところと和音によるリズムのところをはっきり意識しましょう。軽快な曲ですが、最後のセクションは滑らかで柔らかい響きです。ここは夢を見ているように、とても綺麗な響きです。