2度目のレスンは明くる年の1986年でした。バルセロナのルティエール音楽院の主催で約一週間のマスタークラスがあり、それを受講することが出来ました。この時の最大の目玉はレッスンに先駆けてデイビッドのリサイタルが開催されたことです。当時はDavid
Russell という名声が凄まじい勢いで、特に若い世代に浸透し始めていたときでしたので、会場は立錐の余地もありませんでした。非常にクリアな音が音楽の作りを明確に伝えます。客席の自称「Daivid
通」氏によると「今日の david はベストではない」とのことでしたが、私には初めての生演奏でしたのでそれを判断する術がありません。ただ、かなりヴォリュームのあるプログラムを解説を加えながら、圧倒的なエネルギーで聞かせてくれたことが強い印象です。演奏のことについてはもう一度、あとで触れようと思います。
レッスンは相当数の受講生がいたことと、受講生のレベルが様々だったので、あまりハッキリとした印象はありませんでした。時間が区切られたレッスン、様々な受講生、レッスンの進行同様、レッスンの内容も比較的淡々としたものであったような気がします。ただ、技術的に問題のある生徒にはそのことをハッキリと指摘し、どんな練習をすべきかを解説していたこと、また様々な時代の作品が演奏される中で、バロック、クラシック、ロマンなどのスタイルをもっと学ぶように繰り返し説いていたようにも記憶しています。私はダウランドのプレリュードとグラナドスのスペイン舞曲第2番を演奏しました。
マスタークラスでの最も強烈な記憶は、全てのスケジュールが終って質疑応答を受け付けたときに、タッチのことを詳細に語ってくれたこと、それから最後にある受講生が(ムルシアのギタリスト、カルメン・ロスだったと思いますが)手を上げて「David
何か一曲弾いて!」と言ったら、(勿論私は「わあ、何て大胆なことを言うんだろう」とその瞬間思ったのですが)「いいよ」と簡単に言って、「ああ、弦がもう古いけどね」と付け加えて演奏を始めたことでした。丁度バルセロナでのリサイタルに来る前ロンドンでレコーディングを終えて来たところ、とのことで、その時の収録曲だとの解説もありました。曲はJ.K.メルツの「エレジー」。私はこの曲をその日まで知りませんでした。演奏が始まるやいなや、あたかも奏者の頭上からスポットライトが当たったかのような印象があって、会場を包み込む温かくスケールの大きな音楽は、会場に水を打ったような静けさをもたらしました。まるでショパンの作品をピアノで聴いているかのような錯覚におちいり、私の体中の五官がまるで興奮しているようでした。
演奏が終るや否や、一瞬の静寂を置いて、割れんばかりの拍手。数日前のリサイタルで聴いたアグレッシブなプログラムとは打って変わったこの演奏は、私にとって生涯忘れ難い瞬間となりました。ギターという楽器が、実際に、ここまで精密で繊細で、そしてかくもスケールの大きな音楽を表現しうるのだという、ひとつの証でもありました。
(2004年10月3日 )
つづく
David
russell来日スケジュール |