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Lesson レッスン

Lesson レッスン
~教えるって、なに?

 学生の頃に(この頃私は岡本一郎先生にギターを習っていましたが、そのほかにも何人かの先生に、ワンレッスンのような形で教えを受けたり、公開レッスンで教えていただいたりしていました)、バッハの「シャコンヌ」をある先生にみていただきました。演奏が終って開口一番、その先生は「君はこの曲で何を表現したいの?」と尋ねてきました。私は返答に窮しました。何故かというと、私は「何かを表現する」ためにこの曲を弾いていたのではなく、「バッハのシャコンヌが好きだから」弾いていたからです。この先生がおっしゃったのは、「この曲は人生を表現する」「宇宙の真理を体現した音楽」であって、そういうものが表現されたり、そういう意欲がないとこの曲は弾けないのだとおっしゃいました。二時間近くに渡ったこの先生のレッスンから得るものは何もありませんでした。強いて言うなら「こんな先生には二度と習ってはいけない」という決意を得たことです。これは今になって思うと貴重な体験であったかもしれません。
 ギターに限らず「教える」ということは、最大限の「具体性」を持っていなければいけないと私は思っております。抽象的な表現や比喩で固めたような「似非教育」は禁物です。音楽に関しては、何故その音が強くなければいけないか 、なぜその音が短くなければいけないか、教える者は具体的に明確に答えなければいけません。・・・答えられなければいけません。テクニックに関しても、なぜ指をそう動かすべきなのか、なぜそう身体を使ってはいけないのか、なぜ、何のために その練習をしなければいけないか、 教える者は具体的に明確に答えなければいけません。・・・答えられなければいけません。学ぶ人は、その「何故」を学んでいかなければなりません。
 「ここはね、一面に野ばらが咲いているような情景だよ」と先生が言ったとき、「じゃあ、どうやったら《一面に野ばらが咲いているような情景》のように弾けるんですか?」と聞いてみたら良いと思います。先生はそれに答えなければいけません。もしせんせいが答えられなかったり、「君は何を言ってるんだ!」と怒るような先生だったら、直ぐに辞めたほうが良いと思います。きっとその先生は、私がいつか教わったように、人生を語らせようとしているのだと思います。人生を語る前に、ギターを少しでも上手に弾けるようになるにはどうしたら良いかと言うことの方が大事です。人生を語るのは、それからでも遅くありません。
 

 


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