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《続・独習者のためのステップアップ講座》
by Shingo Fujii
guitarstudy

shingoCHAPTER 8.
音色(ねいろ)-2

  ギターの音色の素晴らしさは多くの人達が語っているところでありますが、その魅力に取り憑かれ、頭の中にそのことばかりがあると、ともすれば音楽の本質を見失ってしまうことがあります。若い演奏者は特にそのことに気をつけなければなりません。ここでは技術的側面から音色にのコントロールについて学びます。

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第1節「音色を変える二つの方法」

 教則本などでは「サウンドホールの上や指板上で弾くと(sul tasto スル・タスト)柔らかい音が、そして駒の近く、ブリッジ寄りで弾くと(sul ponticello スル・ポンティチェロ)硬い音が得られます」と言うようなことを説明しています。これは音色を変えるための、おそらく最も一般的で、代表的な方法です(図8-1)。この方法を仮に「位置移動による音色変化」と呼ぶことにします。


【図8-1】〜位置移動による音色変化
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 ここではもうひとつの方法をマスターしましょう。これは「角度調整による音色変化」です。弾弦する角度を変えるわけです。

【図8-2】手首の角度調整による音色の変化

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 ところで、第8章では「音色は倍音によって決まる」と言いましたが、倍音が多いと言うのはどういうことなのか今一度整理しておきましょう。
 現実の世界で私達が耳で聞く音は「空気が振動」しているから聞こえるわけです。「風の音」は空気そのものの「動き(振動)」が音になるわけですが、それ以外の音は何か「物」が振動して、その振動が空気を震わせて、結果的に私達の耳に音として認識されるわけです。例えば「机」を手でたたくと「バン」という音がしますが、足で蹴飛ばすと「ガン」と鳴ります。木の棒などで殴ると「ガツン」と鳴りますし、包丁を突き刺すと「グサッ」と言う音がするかもしれません。同じ机でありながらなぜこのように色々な音がするかと言うと、そこに関わった物が「手」「足」「棒」「包丁」などと様々だからなのです。つまり、殴った物によって音に含まれる「倍音」が様々に変わると言うことです。包丁の場合は殴打したのではなく、突き刺さったわけですから、別の要素が関係してくるでしょう。
 「机」のようなものを「剛体」と言いますが、剛体は全て固有振動数を持っています。つまり「100Hz」とか「563Hz」とか、一秒間に何回振動するかという「性格」のような物だと思えば良いでしょう。身体の大きなA君は「のんびり喋る」から固有振動数が低い、しかし小柄で身軽なB君は「早口で軽快」だから固有振動数が高い、・・・などと例えて考えても良いでしょう。より大きな物はより低い音がし、より硬い物はより高い音がする、これも私達の日常生活の経験として、すでに皆さんご存知のことかと思います。大きな鍋をすりこぎで叩くと「ゴン」と鳴りますが、スプーンで叩くと「カーン」と甲高い音がします。これはスプーンで叩いた時に、よりたくさんの倍音が鳴ったからなのです。つまり、いつもはのんびりしたA君も初恋の女性の前では緊張して声がうわずってしまう・・・、またはいつもキャンキャン賑やかなB君もマラソンのあとではぐったり疲れて、張りの無い声で返事をする・・・、と言うようなことです。剛体はそれぞれに「固有振動数」を持っていて、どんな音がするか決まっているのですが、倍音の加わり方で、その「音色」は変わってきます。

【図8-3】〜倍音
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 「図8-3」はそれを少し専門的に説明していますが、「a」は倍音が少ないので「ずっしり」とした音で、・・・もしかしたらいささか「ぼんやりした」音かもしれません。一方「b」はとても倍音が多いのでとっても「きらびやか」で「はっきりした」音かもしれませんが、同時に「キンキン」しているかもしれません。いずれも「f1」という同じ高さの音なのですが、倍音の含まれ具合で音色が違って聞こえます。
 よく楽器の謳い文句などで「豊かな倍音」と言う表現がありますが、倍音が矢鱈と多ければ良いと言うわけではありません。これは「艶やかできれいな音ですよ」という程度の「修飾的表現」だと受け止めた方が良いでしょう。必ずしも科学的な表現ではありません。