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《ソルの悲劇的幻想曲? 》
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ソルの悲劇的幻想曲?
 
更新/2010年10月25日
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3.言葉

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 曲の後半は「葬送行進曲 Marche Funebre」です。Andante moderato、穏やかな足取りを作者は求めています。曲の最後で・・・

Charlotte!  Adieu!

・・・と、かえらね人となった友人の名を呼び、惜別をする様は聞く者だけでなく、演奏者の胸をも締めつけます。これらの言葉が記された部分は「2 + 2 = 4」小節からなり、「IV度(サブドミナント) → I度(トニック)」という和音のつながりが二回繰り返されます。内声の動きは美しく、いわゆる「アーメン終止」と同じく、まるでそこにソルの祈る気持ちが書き記されているように思われます。

 問題としたいのは次のヶ所です。一転して和音は「短調六度上の和音」に転じます。これは長和音です。最も深い悲しみの中からも、神のみもとに召された友人への最後の手向けの言葉、もうそれは言葉にすらならない、そんな瞬間ではないかと思います。ここにそるはフランス語で、明らかに「peu フォルテ」と書いています。「un peu」ならば「少し」と言う意味ですから、いくらかフォルテで弾くことを求めていることになりますが、「peu」ですから、むしろその逆。私はこれまでに「un peu」と書き足された楽譜を見たことがありますが、それは間違いでしょう。さらに驚いたのはなんと「piu フォルテ」とイタリア語に書き直したもの。これは「もっとフォルテで」と、全く違った意味になってしまいます。

 ではなぜソルは「peu フォルテ」などという逆説的な表現をとったのでしょうか? 奏者はそれを考える必要があります。「ちょっと強く弾け(un peu フォルテ)」とは言わなかったのです。ましてや「もっと強く!(piu フォルテ)」など、もってのほか。だからと言って、ソルは「ピアノ」と「ピアニッシモ」とは書きませんでした。
 ソルにとってこの最後の長和音は、嗚咽の瞬間です。絶叫せんばかりだから、音楽的表現としては「フォルテ」なのですが、それは「声となって出ない(peu)」 ということを言っているのではないでしょうか。

 これらのことが理解されていなければ、せっかくの名作「悲歌的幻想曲」も悲劇的な曲になってしまいます。

(藤井眞吾/2010年10月25日 )

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