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《はみ出し者の運命》
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はみ出し者の運命
2.こめられた意味(Op.44-7)
 
更新/2010年10月20日
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2.こめられた意味(Op.44-7)

 ソルの作品44は私がソルを「大作曲家だ!」と思わせる作品のひとつです。ここある24曲に、ソルの音楽の全てがある、とさえ私は感じています。ギター教本を出版したその翌年、1831年にパリで出版しています。教本が晩年のソルにとって入魂の執筆であったであろう事は想像に難くありません。そしてこの作品44はその後を追う様に出版されましたが、同様にソルはこの作品集の中に重要なメッセージを残していると私は思います。
 ひとつは「演奏者のためのメッセージ」。この曲集をよく読んで、見て、しっかりギターのテクニックを学んで下さいよ、・・・と言うことです。 現にソルはこの曲集では入念な運指の書き込みとアーティキュレーションを施しています。言葉ではなく、実際の音楽でもって、自然で、基本的なギターの奏法を学ばせようとしています。そして、入念に見ていくと、運指の無いところ、スラーの無いところには、「ほらほら、ここはどうやって弾くのかな?」と、ちょっと意地悪なソルからの宿題が発見できるはずです。
 もう一つは「作曲家へのメッセージ」、あるいは学習者への「作曲家からの視点」といってもいいでしょう。弾きやすい調から始め、徐々にシャープを増やしていき、最後は「#が三つ」つまり「イ長調 A-Major」まで学ばせるのですが、「ハ長調」からはじまり、同主調、属調など近親調への転調、また平行調などの調性関係を自然に学ばせています。・・・このことは機会を改めて書きましょう。今日は「第7番」に見られる「はみ出し者」の話です。

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 曲は「Andante Allegro 2/4拍子 ト長調」です。前半は属調の「二長調」で終止しますが、後半で直ぐに主調へ戻ります。この戻り方が私は好きです。曲の始まりは主和音の分散、長三度、完全四度、と下降しますが付点を伴った生き生きとしたリズムで「アウフタクトから第1拍目」へ落下します(motif - A)。するとすぐに緩やかな上昇を始めますがこれは先の動きとは対照的に八分音符の均等な音価、そして半音進行(motif - B)。さて問題は後半の始まりです。ここのリズムはメッソニエ番でも、シムロック番でも「十六分音符」ですが、曲の出だしと同じ付点のリズムにしてしまっている版があります。何故でしょう? 理由はなんでしょう? きっと同じような動きで、しかもアウフタクトの同じ動機だ、と考えたからではないでしょうか。だから「ミスプリントだ!」と勝手に付点をつけたのではないでしょうか。
 私はそれは違うと思います。ここは「motif - A」ではなく「motif - B」 で後半を開始することによって(半音進行)、音楽の雰囲気を変えているのではないでしょうか。だからここには「付点の弾んだリズム」は不必要なのです。ソルはそのことを確信をもって書いていると思いますし、何よりも重要なことは、旋律の動き、特にどのような音程で動くか、そしてその動きには自然とリズムが伴うものだということを、学習者に教えているのではないでしょうか。勿論「半音進行には付点はつかない」などと馬鹿なことを言っているのではありません。音楽とは音の高さ、音と音の隔たり、音の強さ、前の音に対する次の音がより強いのか、弱いのか、あるいはより長いのか短いのか、などということによって「表情を作りだしていく」ものだから、私達演奏者は作者の書いた音楽を慎重に読まなければなりません。これらの初版にミスがないとは言えません。しかしだからと言って、ソルがこう言った作曲上の重要な部分に無神経な音楽家であったとは、私には思えません。なぜなら、後半のこの部分はこの作品中最も美しいところだからです。ここに付点をつけてしまう無神経さは、私には受け入れがたいものです。ソルが私達に残した「宿題」を慎重に学ばなければなりません。