《四つのリトルネッロ Quattro Ritornelli》は2011年に日本ギター合奏連盟の委嘱作品として作曲し、同年初演されました。元々は「ギター合奏のために」として作曲したのですが、作曲当初から「ギター四重奏でも演奏が可能であるように・・・」という事を念頭ににおきながら作曲しました。初演は私の指揮で行われましたが、実はその時のメンバー8人のうち二人が現在の「Quattro Palos(クアトロ・パロス)」のメンバー、斉藤君、萩野谷君でした。
その後この作品は海外で演奏される事が多く、私もハンガリーのフェスティバル、韓国のフェスティバルで演奏(指揮)をしましたが、演奏した学生達や聴衆にも大層喜んでもらえました。その間にも「クアトロ・パロス」が四重奏曲として何度か演奏してくれていたのですが、今回彼らのセカンドアルバムに《四つのリトルネッロ》を含んで下さった事は、私にとって大きな喜びです。
実は日本ギター合奏連盟からの作曲の依頼は2010年の末頃から戴いていて、構成は少しずつ練っていたのですが、2011年の3月11日に衝撃的な震災、そして津波による災害がありました。その後、連盟の方から作品をそれに関連したもの、亡くなった人々へ捧げるようなものに、という相談を受けたのですが、それをお断りしたという経緯があります。理由のひとつはその時点でもうある程度曲の構想が進んでいたという事と、もうひとつは私は私経つ音楽家が、特に作曲する時に、そういった災害に捧げるという事を謳う事にある種の抵抗を感じていたからでした。それはそういう事を否定するのではなく、たとえ作品を捧げても一人の命も「却って来ない」という、いわば音楽家としての無力感のようなもののほうを強く感じさせられていたからでした。
しかし、言うまでもなく、あの震災と津波が私達から奪ったものの大きさと深刻さは私にとっても、名状し難いものであり、自分の気持ちの中でも「復興」したいという衝動があった事は事実です。最初から「リトルネッロ」という形式で書きたいと思っていたので、その形式から少し離れて「ritornello」の語源となる「ritorno(帰る)」という発想から、失ったものを取り戻す、故郷へ帰る、というような気持ちを曲の中に描きました。
それぞれの楽章は冒頭に短い「斉唱」部を持ちます。
第1楽章は「 ... verso il mare 海へ」と題した《舟歌 Barcarole》、海は「生命の源」ですが津波は多くの生命を奪いました。再び海が我々の生命の源へと帰ることを祈りつつ。
第2楽章はイタリアの特徴的舞曲である「Tarantèlla タランテラ」、音楽と言うよりも我々人間の営みや響宴の象徴です。
第3楽章は「Cantilèna 詠唱の歌」、哀歌ではなく静かに幸せを願う歌、各パートのソリストの独奏は総奏を優しく招き入れます。
最終楽章の「... la fine e l’ inizio 終わりは始まり」という抽象的なタイトルは「帰る」という意味の「リトルネッロ」を別の言葉で表現したものです。古いイタリアの舞曲《サルタレッロ Saltarello》、喜びに満ちた終幕は必ず新たな幕開けにつながると思うからです。
Quattro Palos(クアトロ・パロス)
齊藤泰士・多治川純一・萩野谷英成・前田 司
CD情報
《四つのリトルネッロ Quattro Ritornelli》の楽譜
《四つのリトルネッロ Quattro Ritornelli》の初演 YouTube
ハンガリーの学生達による演奏 YouTube
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