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《24の漸進的小品集 Op.44

by F. Sor

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24の漸進的小品集 Op.44

2023年3月1日
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No.11 Andante

 とても悲しげなアンダンテ。ソルの作品をよく知っている人ならすぐにお気づきでしょうが、この作品は晩年の名作「悲歌的幻想曲 Fantaisie Elegiaque, Op59」の後半、「葬送行進曲 Marche Funebre」にとても良く似ています。

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 作品44-11では「Andante」としか書かれていませんが、私は「葬送行進曲」であると思って演奏しています。

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 「葬送行進曲」であると考えた場合、テンポの選択が限定されます。故人がおさめられた棺を担いでの葬列の歩みがどんなものであるかを想像しなければなりません。拍のひとつひとつはその一歩一歩に相当します。
 非常に単純な旋律ですが、悲しみに満ちています。雑音のないきれいな音で演奏したいと思います。また [A-1] にあるようなスラーはアポジャトゥーラに付けられたものですから、1拍目の「ソ」ははっきりと、そして音価は十分に保って、そして次の音「ファ#」はより弱く、そして音価は短めに、アーティキュレーションを作ります。このことは後半の [A-2] でも同様ですが、このこのスラーは「スラー奏法」で演奏する事は相応しくないでしょう。不可能ではありませんが、技術的に非常に難しいと思いますので、「ソ」「ファ#」の二つの音は右手で弾弦しますが、音の長さは [A-1] と同じになるように、右手をコントロールします。ソルが果たしてどちらの方法で演奏する事を期待していたのかは解りません。

 後半の始まり方は、この曲の中で最も美しい瞬間です。前半は属和音で半終止しますから、前半を繰り返した時には当然それは「ホ短調」の主和音へ極めて自然なつながりになります。ところが前半から後半に入った瞬間、そこで待っているのはホ短調の主和音(Em)ではなくト長調の主和音(G)、またはホ短調の三度の和音です。長和音ですので、それまであった沈鬱な空気が一瞬にして明るく、また暗かった空の雲間から明るい陽光が降り注いで来たように感じる筈です。このような表現(こういう瞬間)は先にご紹介した、作品59の幻想曲にもあるのです。 まるで故人との幸せな想い出、楽しかった時間の記憶が蘇って来たかのようです。この和音、ここの旋律はふくよかな音で演奏したいと思います。
 しかしこの幸福の時間も長くは続きません。後半の2小節目、せんりつは「ソ→ファ#」となりますが、3拍目の「ファ#」が聞こえたところまでは「ト長調」に聞こえるのですが(なぜならそれはト長調の属和音)、次の瞬間(4拍目)で聞こえる和音はホ短調の属和音であり、今まで見ていた夢が覚めて、突然悲しい現実に引きずり戻されるかのような瞬間です。旋律「ファ#」は二つの調にまたがっているわけです。
 楽譜三段目の二小節目に旋律「シ」が4回繰り返されますが、これら、あるいは2拍目以降は軽くスタッカートで演奏します。最後の小節の低音も同様です。悲しみのあまり言葉が途切れ途切れになるかのように、あるいは嗚咽が聞こえてくるのかもしれません。