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ニーズにあった曲づくりも面白い
2003年11月29日京都新聞(夕刊)より

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編曲を頼まれたのが作曲の始まり。「労力のわりに余り楽しくなかったから、それじゃあ、自分でかいちゃおうと思った」

 「作曲家って、人生をかけて渾身の曲をかく、というイメージだけど僕は違う。ニーズがあるから曲をつくる。いわゆる“職業作曲家"です」。余りに力みがなくて拍子抜けした。だからといって手を抜いているわけではない。そういえば、バッハもモーツァルトも職業作曲家だ。
  藤井の本業はギタリスト。ソ口もあれば伴奏もやる。昨年暮れ、フルート二本とチェロの組み合わせでコンサートを開いた。今夏はギタリスト三人でアンサンブル公演。自作のギター三重奏のための〈Occasions〉」を初演した。
  「ギターの三重奏曲はあまりないんです。だからつくった」。まさにニーズがあったわけだ。三曲で構成するが、二曲目が面白かった。短い旋律やリズム、テンポを少しずつ変えながら反復するミニマルの手法を取り入れた。二十世紀半ば、ライヒら米国の作曲家が試みて世界へ広まった。
  藤井は、三人に違う旋律やリズムを持たせ、輪唱風に続けた。互いが全く折り合わず、不安定で浮遊した音空間になる。かと思えば次の瞬間、音が巧みに重なり、ギターのせつない調べが響く。万華鏡を回すように少しずつ変わっていく。
  「ミニマルは音楽のあらゆる要素を最小限でつくる。二十世紀の半ばに音楽は最高に複雑化 したものになり、それへのアンチテーゼだった。今はシンプルなのがいいですから。なじみやすく、口ずさみやすい音楽。今はこの流れでしょう」
  この夏は、ギターの大編成曲も依頼された。フェスティバル --- で演奏される曲で、初心者からプロを目指す人まで一緒に弾く。「初心者向けのパートがいりますよね。簡単だけど格好良く聞こえないといけない。これが難しい。さらに、中程度の人、プロ級の人たちの欲求を満たすような旋律もいる。職業作曲家はニーズを満たして何でもかかなくてはいけない。これが面白いんです」
 ニーズがなければ作曲しないため、自作のソロ曲を自身が弾くことはない。「僕が弾きたい曲は僕がかかなくても、まだまだいっぱいあるしね」。職業作曲家を自称するが、将来、藤井が人生をかけた津身の一作を聴いてみたい気もする。


ふじいしんご 1954年北海道生まれ。京都大農学部卒。ギターを岡本一郎に師事し、スペイン国立オスカル・エスプラ音楽院へ留学。日本ギタリスト会議主催「第1回新人大賞選考演奏会」で1位。現在、国内各地で活躍中。