ギタリスト・藤井眞吾のWebsite
 
El Decameron Negro
Night Sketches

ギタリスト・ 藤井眞吾のWebsite / from Nov. 19th 2002 / 更新:2005年11月25日

展覧会の絵
(ムソルグスキー 作曲;ギター合奏版/藤井眞吾 編曲)

立命館大学ギター部
第44回定期演奏会
●11月29日 午後6時開演
●京都府民ホール ALTI
チケット/¥500

 

9月に練習を聞かせてもらってから、二ヶ月が経ちその間に、10月22日、そして11月15日と合計三回の練習を立ちあいました。回を重ねるごとにメンバー全員の顔が引き締まり、目が真剣になって行く様がよくわかりました。
 今回立命館大学ギター部からこの作品の編曲を依頼されて、編成をどうするか、編曲を収める期日はいつまでになるか、編曲料など様々な契約に、「練習に三回立ちあう 」という項目を私の方から付け加えてもらいました。主な理由は彼らの練習を手伝ったり、アドバイスをあげたい、という単純なものでしたが、もうひとつは、今大学生達がどのように練習し、そしてそのレベルが一体どれくらいのものなのかを確かめたい、という個人的関心もあったのです。というのは私自身大学生時代に「ギタークラブ」に籍を置き、部長も務めたことのある人間でしたが、どうも大学の「ギター合奏」というものに納得がゆかなく、ずっと拒否してきていたからです。といいつつ、実は大学4年生の時には自らリーダーとなって少人数の(8人)アンサンブルを編成し、当時大学生を対象に行われていた合奏コンクールで金賞をもらったりしたこともあるのです。
 合奏やアンサンブルが嫌いなわけではありませんでした。ただ単に当時行なわれていた「ギター合奏」というもののやり方や実情が果たして、「最高学府」の人間が成しうる最善のものであるかどうかという疑問を持っていたのです。結論から言えば、大学こそ違え、状況は30年前と何も変わっていない、というのが私の印象です。学生のギター合奏の問題点は、質の高いオリジナル作品や編曲作品が非常に少ない、ということ。そして合奏を指導する人材、あるいは指揮者が現場にいないということ、この二点に集約されます。もっとつきつめれば、合奏をやっている学生諸君自身がそういう自分たちの状況を理解していないだろう、ということが問題であるともいえます。
 指揮者の育成は急務であり、深刻な問題だろうと思います。何も経験のない人間が大役を押し付けられて無理な練習に時間を過ごすことはありません。指揮者に選ばれた人間の責任を問う前に、それを選出した部員の認識が問われるべきでしょう。各大学の「オーケストラ」では、実際のプロのオーケストラから学んだ様々な方法が踏襲され、また実際にコンチェルトのゲストプレーヤーを招くとか、指揮者を招くということが当然のこととして受け継がれているので、その差はケタ違いにあるわけです。
 ギター演奏の技術指導者を招くという方法は、これだけ新しい世代のギタリストが育ってきているのですから、何も問題なく解決できるでしょう。指揮がきちんと出来るプロのギタリストも、多いとは言えませんが出てきているので、そういった人材を求めても良いだろうと思います。そういう中で、クラブの部員中から適切な人材を選び四年間をかけて自分たちの指揮者を育てていく、と考えるのがもっとも堅実な方向性ではないでしょうか。
 ともあれ、先日の練習を聞くかぎり、立命館の諸君が全身全霊、私の編曲に打ち込んでくれているのが、良く分かり、11月29日の演奏会が非常に楽しみです。お近くの方は是非「京都府民ホール ALTI」に足を運んでみて下さい!
9月25日(日)
編曲が出来上がって三ヶ月が経ち、立命館大学ギター部の皆さんの練習を初めて聞かせてもらいました。ギターが4部に、アルトとバスギターを加えた、6部編成のこの編曲は決して易しいと言える編曲ではありませんが、皆非常によく練習ができていました。勿論、定期演奏会まではまだ二ヶ月(11月29日)あるわけですから、さらに練習を積み重ね細部を磨き上げることは勿論、個々の楽章の音楽を掘り下げる作業は必要でしょうが、第一回目の印象としては「この後の仕上がりが楽しみ」と言うところです。
 改めてこの作品の独創性と魅力、そしてそれらがギターのアンサンブルによって、一層個性的な作品に仕上がるという確信を持ちました。一歩一歩、階段を上ってゆくようなプロムナードのひとつひとつの音は、ギターの表情豊かな音色によって、様々な意味合いを感じさせることが出来ます。「古城」がギターの音色に最適であることは、かつてセゴビアがこの曲を独奏曲として録音していることを弾きあいにする必要もないでしょう。「チュイレリー広場」の足音のような、あるいはかまびすしい談笑の声のような十六分音符が、ギターの軽やかな音階に相応しいことも、「殻を付けたヒヨコの踊り」のひょうきんさも、ギターにとっては独壇場です。「ビドロ」の重々しさ、「ババヤーガの小屋」 の熱狂と神秘性、そして終曲「キエフの大門」の激情と静寂、あるいは壮大な響が、多くの人達が想像する以上に、ギターの合奏によって見事に表現されうるということを確信しています。
 とは言え、アンサンブルの・・・、特にギターのアンサンブルの練習では、例えば通常のオーケストラというようなお手本が無いだけに、例えば練習のプロセスであるとか、各パートの役割分担、もっと子細に言えば指揮法のギター合奏における特殊性など、解決しなければならない問題も少なくはありません。それは合奏団全体の問題であり、個々のメンバーが全体としてこれらの問題をどう考えるかという、方向性を持った意志を見つけなければいけない、と言う問題でもあります。
 例えば独奏楽器であるギターが何台も、何十台も集まって何をやるのか、また何をお互いに助け合うのかという、そしてそれを如何に統率していくのかという問題は、極めて音楽的な答えを見つけなければいけないはずです。私にとっては、極論すれば、個々のギターが持つ機能を最大限に活用すること、そして持ちうる音色の可能性を、パレットに無限の色彩を作り出すように、新しいサウンドを練りだしていく、と言うところに面白みが感じられます。この後立命館大学の諸君がどんな演奏を聞かせてくれるようになるか楽しみです。次回の練習は10月22日です。
7月1日(日)
ムソルグスキーの代表作「展覧会の絵」はかつてロックグループが演奏したり、またコンピューター音楽の先駆け富田勲氏が演奏したり、言うまでもなくラベルの名編曲や、ホロヴィッつの名演奏も忘れられない、まさに名曲と言える作品です。私自身大学生の時、ギタークラブの仲間達と全曲を演奏したことがある思い出の曲ですが、今回立命館大学ギター部の依頼で、「プロムナード」「古城」「プロムナード〜チュイレリーの広場」「ビドロ」「プロムナード〜殻を付けたヒヨコの踊り」「バーバヤーガ」「キエフの大門」の7曲を編曲しました。編成は「Alto Guitar, Guitar1, Guitar2, Guitar3, Guitar4, Bass guitar」の6部編成。改めてこの曲が、驚くほどの創意に溢れた作品であることを痛感しました。立命館大学ギター部の定期演奏会は「11月29日、京都府民ホール《アルティ》」です。そのうち当サイトで私の編曲作品もまとめてみようと思います。(7/1)


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