はじまりの音楽
クラシックギターには語り尽くせない魅力と、限りない可能性があると、私は長い間確信し、それを演奏し、またそのために作曲し、さらに指導をしてきました。しかしその音楽のほとんどが「独奏」という方法に限定されているために、この楽器を勉強する人達の多くが、音楽本来のあり方である「自分以外の人間とのコミュニケーション」という事を失念してしまうことがたびたびある事に、危機感すら覚えていました。その問題を解決するために、勉強の極めて初期の段階から、独奏曲だけではなく、何か簡単で、親しみのある音楽を、自分の先生と二重奏で学んでいくという事が重要であろうと考えていました。偶然にも、私の旧友である、ギタリストの井桁典子さんから、そういった教材が欲しいという依頼を頂いて、この曲集を編纂しました。「はじまりの音楽」というタイトルは、そういう意味を込めて命名しました。ここには日本の古い民謡や、19世紀から20世紀にかけて日本の政府が国民のために作った、いわゆる「文部省唱歌」の数々を収録しています。どれもが、私にとっては、愛すべき美しい音楽、そして後世の人々にも歌い継いで欲しい音楽ばかりです。