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Guitar Study

《24の漸進的小品集 Op.44
by F. Sor

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作 品 研 究
24 Petites pièces progressives, Op.44

2019年6月3日
 
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No.21 Andante

 おおよそ「Andante」という言葉で指示された時ほど、テンポの幅が広く、どのように演奏すれば良いかが難しいことはありません。本来「歩くように」という意味なので、のんびり歩く場合もあれば、駆け足の場合もあり、様々な筈です。特にバロック時代、この言葉は速いテンポの音楽でもしばしば用いられました。ドメニコ・スカルラッティーの500曲を越えるソナタをみればそのことがよく分かるでしょう。またバッハの「Andante」と「Adagio」の音楽を比べてみれば、それぞれの言葉で表された音楽の性格の違いに気付く事でしょう。私はこの曲の場合の「Andante」は、かなりゆったりとした「Andante Largo」と感じるのが、曲調に相応しいのではないかと思います。

 さて、この曲は当曲集の中でも、最も甘美で美しい曲のひとつです。私の大好きな曲でもあります。ゆらゆらとゆったりした流れ、静かな時間の流れに身を委ねるような快感があります。その「穏やかな」音楽の流れの秘密は「ペダル」の使用にあります。何とこの曲はそのほとんどの時間が「トニック(主音)ペダル」と「ドミナント(属音)ペダル」で支配されています。この曲は「イ長調」ですから「トニック・ペダル」は「ラ(5弦)=青下線」、「ドミナント・ペダル」は「ミ(6弦)=緑下線」です。楽譜を見てみましょう。

44_21

 ペダルの効果は「持続」です。ある種の緊張感や、気分が変化しつつも、それを極端な変化ではなく、なだらかで、穏やかなものに変えてくれます。冒頭から四小節間、旋律の全ての変化はドミナント・ペダル上で起こりますので、旋律の色合いはパステル・カラーのように、優しい表情になっている事が解ります。5小節目でやっと低音は動き出し(その時私達は始めて、音楽の明確な変化に気付くと思うのですが)、6小節目の六度の和音(マイナーの和音)の上で起きるアポジャトゥーラは、とても切なく、美しく聞こえます。
 7小節目から8小節目でのドッペる・ドミナントからの半終止は調子が属調(ホ長調)に転調したかのように、私達を幻惑します。しかしここから続く8小節間は主調、イ長調のままで、ペダルの「ミ」はドミナントの機能を保ったまま長い緊張を作ります。このセクションでは主題へ回帰するまで、その方向を感じながら、音楽の流れを少し「前のめり」にしていった方が、曲全体にまとまりをもたらします。聞き手には気付かれない程度に、ほんの少しだけテンポを上げるわけです。
 曲の最後の4小節間も、最高に美しい時間です。長いドミナント・ペダルに支配された時間から解放されて、主題に戻ると旋律はその自由を謳歌するように、輝きを増し、中声部の旋律は三連符による装飾を謳います(何と美しい事でしょう!)。模倣するように三連符で駆け上がった低旋律は、なんと半音下降変質した導音(ソ)にとどまり、私達は「ハッと」息をのみます。それは次の瞬間、半音下降して「ファ#」下属和音の転回形、さらに半音下降して「ファ」、更に半音下降して「ミ(四六→属七)」と経て、大きな安堵の息をつきます。