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Guitar Study

《24の漸進的小品集 Op.44
by F. Sor

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作 品 研 究
24 Petites pièces progressives, Op.44

2021年9月17日
 
 
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No.9 Andantino

 この曲を初めて弾いた時、「ギターってこんなに美しく響くんだな〜!」と感じたことを忘れる事ができません。何か特別な仕掛けがあるわけではないのに、ゆったりとした奇麗なハーモニーや、旋律の表情の変化が自然に聞こえて来て、それはやはり作曲家、 F.Sor がギターと言う楽器のことを熟知しているからだろうな、と痛感もしました。

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  この曲も三声で書かれていますが、おそらくそれはソルの音楽教育の原点がモンセラート修道院での宗教音楽であったという事が深く関係しているのではないかと推測しています。また器楽曲でありながら、各声部の動きは非常にしなやかで表情に富み、たとえばこれを三人で実際に歌ってみてもいいでしょうし、あるいは楽譜に書き加えたように、それぞれの声部が「上声=第1ヴァイオリン」「中声=第2ヴァイオリン」「下声=ヴィオラ(またはチェロ)」などと考えてみると、この曲がどんな表情を持っているのか、またどのように演奏する事ができるかと言う想像が膨らみ易くなるかもしれません。勿論ギターの仲間三人で「三重奏」にして弾いてみる事も良いでしょう。
 曲の始まりは、上声部が「シ・ド・レ・ミ」と、そして下声部が「ソ・ラ・シ・ド」と順次進行して上行するのに対して、中声部は「ソ・ソ・ソ・ソ・ソ」と同じ音(主音)を、しかも弱拍で繰り返します。私はこの中声部は非常に美しいと思います。「ソ」でしかないのに、とても美しくセクシーな旋律だと思います。三つの声部が自然なバランスで、はっきりと聞こえるように演奏したいものです。
 4小節目から5小節目にかけて、低音で「ソ・シ・レ・ソ」と上がっていく「つなぎ」のメロディーは、いわゆる「ブリッジ」ですが(ⓐ)、単なる「分散和音(アルペジオ)」ととらえるのではなく、チェロのような低音楽器が艶やかに、たっぷりと歌っている様を想像して欲しいと思います。前半の繰り返し(8小節目)でも、2拍目からの「つなぎ」の動きは同様に、たっぷりと歌いたいと思います(ⓑ)。後半の繰り返しでの「レ・ソ・シ」も同様に思います(ⓔ)。
 後半の始まりは「属音(ドミナント)」のペダル上で、主音(ソ)が半音上昇し、すぐに更に半音上の「ラ」へ解決しますが、ここの一瞬の「緊張」は控えめながら、素敵な表情の変化です。
 続いて現れる半音の下降は(ⓒ)更に魅力的で、それに対する応答(ⓓ)は一層豊かな表情で演奏するべきでしょう。しかしこの2小節に渡る半音の動きは、あくまでも次の意表をついた和音(ⓕ)が解決するための伏線に過ぎません。三つの音はすべて半音の動きで解決する、つながりの強い解決です。こういった和音には、バロック音楽のような某(なにがし)かの「アクセント」が必要です。しかしここを「より強く」演奏する方が良いかと言うと、必ずしも私はそうは思いません。この曲集が作曲された、出版された「1831年」と言う時代を考えれば、それを突然弱く(subito piano)そしてリテヌートして得られる、「ドキッ」とするような、甘く、柔らかい、そういうアクセントこそ相応しいかもしれません。どちらが正解なのかは、ソルに聞いてみるしかありません。いずれにしろ、この和音は「重大事件」ですので、何事もなかったかのように、日常の平凡な出来事のように弾いてはいけないのです。
 また、ここでも注意しなければいけないのは、曲の一番最後の小節。和音は当然、主和音で終わるのですが、弱拍で終わる「女性終止」、そして下声部は「レ→ソ」と下降して終わります。この「レ」は鳴りっぱなしで残してはいけません。次の「ソ(最後の音)」が鳴った時に「レ」は消えている事。つまり「低声部は、レからソへ下降した」ように聞こえなければいけないのです。「レ」はたしかに主和音(ソ・シ・レ)の構成音のひとつであり、仮に残っていたとしても和音が濁るという問題はないのですが、この音は同時に「属音」でもあり、「主音(ソ)」に対して最も強く「帰りたい(解決したい)」おとなのです。鳴りっぱなしに鳴っていると、曲の終止感が薄くなってしまいます。勿論この曲が「三声」であることから、ここで「レ」が残ると、突然「四声」になってしまうので間違っている、という理屈もあるのですが、私には先にお話ししたような、「レ→ソ」という「属音→主音」という五度での音程の移動が、安定した終止感を生むという「感覚」のほうが、はるかに大事だと思います。このことはこの曲集で何度も現れます。特にここの「ト長調」のセクションでは、「ドミナント(属音)」が4弦(開放弦)なので、気をつけなければいけません。