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ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《りんごのおと》

ESSAY
りんごのおと

 
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22.ヒーロー

 

 結構、スポーツ少年であったにもかかわらず何故か野球にはあまり興味のなかった私に盛んに野球の面白さを説いてくれたのは、文学少年の典型のような三歳年上の兄貴でした。野球のルールの機微や、ひとつひとつのプレーの関連がゲームを組み立てること、そして長嶋や王がどんなに素晴らしいプレーヤーなのかを教えてくれました。40年も前の話です。
 中でも長嶋茂雄は特別な存在、ヒーローでした。昭和49年に「巨人軍は永遠に不滅です」との名言を残して長嶋選手は引退しますが、ヒーロー・長嶋茂雄の監督としての出発は多難なものでした。巨人軍が負けていても、しかし兄は必ずこういったものです。「心配ないよ、今に長嶋が指名する代打は長嶋茂雄自身なんだから、そして大逆転さ!」
 そんな荒唐無稽とも思えることを「ファン」とは信ずるものであり、そして「ヒーロー」とはそう思わせてしまうものなのでしょう。オリンピック代表チームの監督でありながら現地へ行くことの出来ないヒーローの心中はどんなに苦しいことか、そして同道することを期待していた選手達の落胆はどれほど大きいことか。
 ヒーローはどんな逆境からも這い上がり、そして私達に限りない勇気と希望を与えてくれるのです。今日、私は「もう一人のヒーロー」の演奏を目の当たりにする興奮に打ち震えています。二年ほど前に直接、荘村清志さんとお話をする機会を得ることが出来ました。荘村さんはまさに現在のギター音楽界をリードされてきたギタリストです。今も計り知れないほどのエネルギーと情熱で私達に沢山の夢を与えてくれることに、感動を新にしました。
 真に永遠に不滅なのは、ヒーロー自信のエネルギーであり、そしてそれを求め続ける私達の気持ちなのかもしれません。

藤井眞吾

「りんごのおと No.22」2004年8月4日発行