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ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《りんごのおと》

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りんごのおと

 
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20.お国名物

 丁度このエッセイを書こうとしていたら、e-mail が山のように舞い込んできて、何かと思えば、私の出身高校のML(メーリングリスト)。函館と鹿児島にある学校だったので、参加者の多くは道産子と九州男児。話題は何かといえば、鹿児島出身のO氏が藤沢小田急の「 初夏の北海道うまいもの大会」に行ってきたら「雄のシシャモが旨かった」という話。旨かったのは「子持ちシシャモ」ではなく「雄のシシャモ」というのが話しの味噌。それが発端となり、北海道、あるいは鹿児島ならではの食べ物や習慣、言葉の話題に火が付いた様子。私も「かてて(=参加させて)」とばかりに、「ぐすぺり」の話題を提供。「ぐすぺり」は北海道では、おそらく何処にでも、何気なくある潅木に成る小さな丸い実で、青いときは酸っぱく、熟すと赤く、ジャムにして食すとよし。北海道を離れて以来これに再会したのはロンドンの八百屋。名前は「goosbery」、おんなじものでした。
 次は「梨」。子供の時、「長十郎」や「二十世紀」は殆どお目にかかったことが無かった。「梨」とは頭の細ったヒョウタンの様な形をした果物。所謂「洋梨」なのだろうけれど、それよりうんとデカカッタ。不味いのにあたると味は大根。でも旨いやつは「長十郎」よりも「二十世紀」よりも、旨かった。あの「梨」はまだあるのだろうか?
 七夕になると子供達は浴衣を着て、空き缶に穴を空け紐でぶら下げて、中には蝋燭一本ともして近所の家を回り「ろーそくいっぽんくださいな~」と唄って歩いて、お菓子をもらう。これはどう見てもハロウィンじゃあないかい? 馬車を後方に引くときの掛け声は「バイキ! バイキ!」。これは英語の「Back」。船に乗った船長が舵をとりながら「ごすたん! ごすたん!」。これは「Go astern!」。札幌のあるところでは、かけっこや徒競走の合図は「合点ショ~! ドン!」だそうな・・・。「合点ショ」は、英語の「Get attention!」だというから、デーブ・スペクターもビックリ。「かいべつ」は「Cabbage(キャベツ)」、「られす」は「Radish(二十日大根)」。鹿児島ネタもひとつ・・・。あちらでは「黒板消し」のことを「らーふる」と言うそうで、これは蘭語の「rafel」であります。
 東北の片田舎の芋畑をアメリカ青年が歩いていたら、畑の向こうで農耕作業にいそしんでいた老人が突然「What time is it now?」と、尋ねてくる・・・。驚いた青い目の青年は慌てて己が腕時計を確かめて「It's three o'clock by my watch.」とかえす。しかし再び 「What time is it now?」の大声。何度答えても、同じこと。不思議に思って近くでよくよく聞いてみると、老人が言っていたのは・・・ 「ホッタイモイズンナ!(掘った芋をいじるんじゃない!)」。 ・・・笑えない話しかもしれません。

藤井眞吾

「りんごのおと No.20」2004年5月25日発行