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ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《りんごのおと》

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りんごのおと

 
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18.漬 物

 今、私は「漬物」作りにはまっています。いえ、今に始まったことではないのですが、今年はひときわ熱心に作っているのです。糠漬(ぬかづけ)は糠床(ぬかどこ)作りに失敗した経験があるので、やっているのはいわゆる「浅漬け」です。私の故郷、北海道や東北地方では、冬になると晩秋に漬け込んだ幾つもの樽の漬物が、貴重なビタミンの補給源となります。食卓には必ず山盛りの漬物があります。冬の間食べるわけですから、勿論しっかりと漬け込まれたものばかりなのですが、いつまでもしゃきしゃきとした歯ごたえや、何とも言えない発酵した香りと味わいが、食欲を嫌が応にもそそります。
 浅漬けには、浅漬けの「奥義」がありまして、一晩から二晩で完成させ、その味わいの頂点を三四日は保てなければなりません。塩を振って重しをのせると、やがて白菜や胡瓜から水が出てきます。生姜を加えると香りが爽やかに、またそれを食してもよし。茄子なども驚くほど水が出ますが、二晩目には水を切って茗荷(みょうが)を加え、酢を落として一晩寝かせると、なかなか乙な味わいになります。ここでも生姜は欠かせません。同じ方法で、なんと人参もなかなか旨く出来上がります。
 程よい塩加減で出来ていても、ちょっと醤油を落として食すると甘味を感じるのは、また不思議です。大地から汲み上げたエネルギーを野菜が蓄え、それに手を加え、いただくわけですからこんな有り難いことはありません。サラダ(Salada/「Sal」はスペイン語で「塩」のこと)というのは本来「塩漬けにした」とか「塩をぶっかけた」と言う意味なのだそうで、これは私にとって立派なサラダ。
 漬物作りは音楽作りと一緒・・・、今度はレッスンの生徒に漬物作りを教えたらいいかもしれない。素材がどんなに大事なのか・・・、そしてそれを丁寧に調理すること・・・、寝かせること・・・、最後には食べごろのタイミングを見計らうこと・・・。音楽とちっとも変わらない、音楽の大事なことは全部勉強することができるかもしれない!

藤井眞吾

「りんごのおと No.18」2003年11月26日発行