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ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《りんごのおと》

ESSAY
りんごのおと

 
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1.りんごの想い出

 

 北海道生まれの私が子供の時分には、おやつと言えば「林檎」でした。小学生の手の平にも溢れることの無いほどの大きさ、パンと張りつめた皮の質感、手に取ったときのずっしりとした量感は今でも鮮明に思い出すことが出来ます。丸かじりして、残るのは芯ばかり。後に残った甘酸っぱいりんごの香りが、今は無性に懐かしく思われます。
 いったい何時の頃からでしょう、こんな林檎にとんとお目にかからなくなりました。見た目は綺麗に、そして大きさも形も色も立派なものばかりが、店頭に並ぶようになりました。ところがどれも何だかフワフワした印象で、歯ごたえもサッパリ頼りなく、しつこい甘さばかりが残る味わいは、子供の時に私を楽しませてくれた、あの精悍で鮮烈な林檎とはおおよそ違うものばかりです。
 マンサーナが「琵琶湖リサイタルシリーズ」を始めました。マンサーナ(Manzana)とはスペイン語で「林檎」と言う意味です。ちょっと酸っぱいような味わいでも、忘れることの出来ない深い滋味に満ちて、中身のしっかり詰まった、音楽会を続けていくことを私が期待していることは言うまでもありません。

 

藤井眞吾  

「りんごのおと No.1」2001年9月28日発行