スペインの音楽を考える時、大雑把に言えば「フラメンコ」と「フラメンコではないもの」を少なくとも知らなければ行けないでしょう。海外旅行のツアーパンフレットに、カタロニアの象徴「ガウディーのサグラダ・ファミリア」と、グラナダにあるイスラム文化の象徴「アルハンブラ宮殿」が断りも無く配列されているように、ともすると私達は同じことを音楽でも犯してしまいがちです。これはスペイン人にとっては大きな問題なのです。
とは言え、イスラムの文化がイベリア半島に強烈な影響を与えたのは中世の、アルフォンソ賢王の時代にさかのぼりますし、その影は(・・・おそらくエキゾチシズムは)18世紀にイタリアからやって来たドメニコ・スカルラッティーにとっては堪らない魅力であったのです。フラメンコの音楽が認められるのはそれほど古い事ではありませんが、それでもスペインの近代音楽に与えた影響は絶大であると言えるでしょう。「アルハンブラ宮殿の思いで」を作曲したタレガは特に晩年そのことに深い興味を抱いてことがわかります。
「ギターの音楽」だけに限定してみても、純粋なスペインのクラシック音楽と、イスラムの影響や、フラメンコの影響を受けた音楽は渾然と共存しているのです。今夜のプログラムでも、それは同様です。カタロニア生まれのギタリスト、フェルナンド・ソルの作品は当時の音楽全体を眺めてみても最高の質を持っていると言えるでしょう。近代スペインの作曲家を代表する一人、トゥリーナのギター作品にはいつも「フラメンコ」の香りがします。
アルベニスやグラナドスのピアノ曲がギターに編曲され、愛奏され、そして好まれるのは、そこにいつもイスラム文化の名残や、それとの関わりを否定できないスペインの民族音楽が、ギターの語法と絶妙な相性を持っているからだろうと推測されます。そして、クラシック・ギターとフラメンコ・ギターは個別にその道を歩んできましたが、それでもどこかで似通った表情や、いくつもの共通項を持っているのは、いずれも「スペイン(西班牙)」という国で培われて来た音楽だからなのだろうと、思います。
藤井眞吾(2014/9/27)
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