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ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《12のエッセイ》

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12のエッセイ

 
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12のエッセイ ・・・
《 コミュニケーション》


 昨日のリハーサルでの事ですが、それほど難しいセクションではないにも関わらず、パートの一人がどうしてもテンポが合いません。本人はそれに気付いていないのです。独奏はと言うと結構難しい曲をすらすらと弾ける子なのですが、簡単なアルペジオを指揮に合わせて弾く事ができません。それもそのはず、合奏での演奏が始まると自分の楽譜と、自分の手元しか見ていないからです。厳しく注意して今日の本番を迎えることにしましたが、昨夜 LAGQ(Los Angeles Guitar Quartette)のメンバーと夕食をとりながら話題がそのことに及びました。「Shingo のアンサンブル指導は優しくてフレンドリーな雰囲気があるからとてもいいよ、でも今日、あの子に厳しく言ったのはとても良かった。」というのです。
 日曜日(3月11日)からわたしはアメリカのヴァージニア州、ワシントンD.C.から車で一時間ほど来たところにある、Loudoun Couty の Leesburg という町に来ています。ここの学校全体が委嘱者として、LAGQ を通じて先の震災と津波の災害に捧げる作品を書いて欲しいと言われ《SHIKI》という合奏協奏曲を書きました。今回のツアーはアメリカ四都市での同作品の初演(私は指揮)と、カリフォルニア州、Orange County でのビル(William Kanengiser氏の事)とのジョイントリサイタル、そしてテキサス州ダラス大学から招かれてのリサイタルが主な内容です。ここLeesburg のHeritage High School を舞台にしての三日間のギターフェスティバルは今日これから本番を迎えるところ、二日間のリハーサルを終えて、少しゆっくりした午前中の時間を過ごしているところです。
loudoun さて話を戻しましょう。実は私は今回、新作の初演の指揮のほかにいくつかのフェスティバルでは、アメリカでギターの先生をしている人達、特にアンサンブル指導をしている人達のために指揮法の指導もする事を頼まれていますが、何かの手違いでここ Leesuburg ではそれがプログラムに組み込まれていませんでした。主管である J.Harmon 氏は昨日の朝私を迎えに来た車の中で、そのことのミスを後悔し「昨日 Shingo がホテルに帰ってからの午後のセッションで、地元の先生達の指揮振りを見て、指揮法の講座を行わなかった事を強く反省しているよ。次回は絶対やって欲しい。」と言っていました。ギターを勉強する人達はどうしても個人プレーでの勉強の仕方に偏ってしまうので、音楽の原点とも言うべきアンサンブルのスキルに欠けてしまいます。それは言葉を変えて言えば「コミュニケーションを持つ」という事で、自分一人が他の人と違うテンポで弾いている、なんて言う事から指摘していかなければ決してアンサンブルを向上させることはできないのです。指揮者とオーケストラのメンバーのコミュニケーション、それは基本であり、そこから聴衆とのコミュニケーションが産まれてくるのです。LAGQ のメンバーと昨夜話したのはそんな事でした。練習の現場は本来厳しいものですが、それを彼らは正当に評価してくれたのが私には嬉しかったのです。アメリカは、しかしこちらから明確にコミュニケーションを持ちさえすれば、かならずきちんと返事が返ってくる国です。それは仕事の契約の話、またそのための連絡等も、インターネットの時代になって、ますます距離は無くなっています。
 さて今夜迎える私の新作《SHIKI》ではオーケストラのメンバー、そして独奏者である LAGQ の四人、そして聴衆とどんなコミュニケーションが産まれるか、とても楽しみです。

藤井眞吾(2012年3月14日)


●関連リンク Tour for « SHIKI » and concerts in USA - 2012