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ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《12のエッセイ》

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12のエッセイ

 
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12のエッセイ・・・
《 煙にまかれた話 》


  以前は英国産の「ロスマンズ Rothmans」と言う煙草を吸っていたのですが、今はアメリカ産の「ラーク Lark」を吸っています。かつて俳優ジェームス・コバーンの「Speak Lark?」というCMがテレビで流れていたのですが、今はコマーシャルはおろか、こういう話題を口にする事すら忌み嫌われるわけですから、味気ないものです。このフィリップ・モリス社の Lark 「赤色ボックス・ロングサイズ」は自販機で入手できない事がしばしばあり、旅先では仕方なく違う銘柄を購入することがあります。幸いな事に、同じくフィリップ・モリス社の「マールボロMarlboro」はどこでも手に入るので、その時はラークよりはいささかワイルドな味わいを楽しむことにしています。
 ところでこの「マールボロMarlboro」という名前、呼称は日本では「マルボロー」と違ったアクセントで読まれる場合もありますが、「マルボーロ」よりはましだろうと思います。「マルボーロ(丸ぼうろ)」は佐賀県のお菓子です。「マルボロー」と読むと、私達ギタリストにはなじみの深いF.ソルの作品二十八番「マルボローの主題による変奏曲」を思い出します。Simrock 版の表紙には曲名が「Introduction et Variations sur l’air: Malbroug」しかも作曲者名は「FERDINAND SOR」と表記されています。ソルが自らの名前を「FERNANDO」「FERNAND」「FERDINAND」など様々に表記した事は知られていますが、音楽の主題となった「マールボロは戦争に行った Marlbrough s’en va-t-en guerre」というフランス民謡の「マルボロー」とは一体誰なのか、これはタバコの「マールボロ」とは関係がないのかといつも気になっていました。
 昨年、韓国のフェスティバルに招かれていった時、同じくゲストとして来ていたウルグアイのギタリスト氏は「マルボロー Marlboroじゃねえよ! それじゃアメリカのタバコだろ! マルブルー Malbroug だよ!」と日本人ギタリストのF氏に言っていました。私もその時は「へぇ〜、そうなのか・・・」と思っていましたが、フィリップモリス社のタバコ「マールボロ Marlboro」の名前の由来はイギリス南部の町「モールブラMarlborough」であるとされていて、ソル作品二十八の主題となったフランスの流行歌は、初代マールボロ公爵、ジョン・チャーチル John Churchill (1650 – 1722) の死を歌ったものですから、フランス語で「Marlbrough」と表記される「マールボロ」は当然「モールブラMarlborough」のことです。つまり「マールボロは戦争に行った Marlbrough s’en va-t-en guerre」の「Marlbrough」とタバコの語源となった「モールブラMarlborough」は一緒、という事のようです。どうぞ皆さん「煙にまかれないように」。
lark ・・・とここで筆を置こうと思ったのですが、本稿タイトルの「煙に巻かれた話」は「けむにまかれた・・・」と読みます。お若い世代はこんな言葉を使わないから「けむりにまかれた」と読んでしまうかもしれないと、些か老婆心、蛇足でありました。さて、一服するとします。勿論、ラークで。

藤井眞吾(2011年12月9日)