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ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《12のエッセイ》

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12のエッセイ

 
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12のエッセイ・・・
《 笑顔 》


 北海道でのツアーを終えて、休む間もなく11月8日から中国に来ています。客員教授としてお迎え頂いている上海音楽院でのレッスン。そして、12日からは南西へ200kほど行ったところにある杭州という町でレッスンでした。「子供達が殆どだから・・・」とは聞いていたけど、殆どどころか、全員が子供、しかもアンサンブルクラスの平均年齢はおそらく7歳くらい。最初はいったいどうなる事やらと思いましたが、アメリカに留学中の Andy 君が通訳を務めてくれて、個人レッスンとアンサンブルクラスがスタートしました。
 どの子もとても才能にあふれ、私の要求に見事に応えてくれるのには本当に驚きました。アルベニスの「アストリアス」を弾いた男の子等は、私のレッスンが最終日、ガラコンサート当日であったにもかかわらず、夜の演奏では私が指摘した殆ど全ての事を、運指やテンポの変化等を含め、見事に対応して来たのには全く驚かされました。
 私が最も驚き、そして感動したのはアンサンブルクラスでの事でした。「簡単な曲を・・・」という主催者の希望だったので、四重奏用にアレンジしていた「さくら」を三週間前に pdf で送っていました。指揮者をたててのアンサンブルは始めてだと聴いていたので、指揮の基本的な事等も訓練しましたが、子供達は既に自分のパートをとても良く練習しており、殆ど暗譜していたために、確実に指揮する手の動きを、逃さず見ながら弾く事ができました。始めての経験という緊張もあったのでしょう、また中国を話せない外国人がやって来て、その指揮に合わせて演奏するのですから、不安もあった事でしょう。最初のレッスンでは表情が硬くこわばっている子供が何人か見受けられました。二回目のレッスンではその表情に少し柔らかさが見られるようになりました。演奏するのが子供だからと言って、音楽の内容や、演奏の仕方に何らかの違いがあるわけでもありません。私の説明が少し専門的になって来ても、子供達は耳を傾け、一生懸命に反応をしてきます。
 最後のレッスンが終わって「さあ、レッスンはこれで終わりです。後は今夜お客さんの前で演奏するだけです。」と言って、皆でお辞儀をする練習をしたり、本番に向けての心の準備を説明したりすると、子供達の表情が一段と生き生きしてきました。
 果たして、夜の本番のステージでは、私が舞台に上がると、なんと子供達は満面の笑みで私を迎え、まさに全身全霊で演奏し、音楽を楽しんでいる事が手に取るように解りました。私は指揮をしながら、この瞬間が永遠に続ことが可能ならば、本当にそうなって欲しいと強く願いながら、最後のタクトを振り下ろしました。全員の音が、息をのむような鮮やかさで消え去り、静寂となった一瞬は本当に奇麗でした。子供達は小さな手でギターを抱え、イスから転がり落ちるように、そして可愛らしい靴を履いた両足で、しっかりと舞台に立って私と一緒にお辞儀をしました。
 私はこんなに美しく、そして喜びに満ちた笑顔を見たことがありません。本当に感動しました。今夜は再び上海で、コンサートして明日日本に帰国します。

hangzou

藤井眞吾(2011年11月17日)