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ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《FORESTHILL NEWS》

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FORESTHILL NEWS

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藤井眞吾 エッセイ vol.11
名曲

 今度の日曜日に、私が毎月やっているコンサートシリーズがあります。今回のテーマは「誰もが奏でるギター名曲小品集」というものです。今は自分のところで生徒に教えていますし、福岡のフォレストヒルにも教えに行っていますから、プロを目指す人ばかりでなく、初心者の人や、お勤めをしながら人生の伴侶としてギターを学ばれる方など、色々な方々と接する機会に恵まれています。特にプロを目指す諸君には「基礎からしっかりやりなさい!」とクラシックの作品、とりわけソルやカルカッシなどの作品を勉強させますが、実は私自身はあまり偉そうなことは言えない、勉強の仕方だったのです。
 私が初めてギターを手にして独学で始めたのが、丁度「東京オリンピック」の年、つまり昭和39年、小学校4年生であったと思います。家に何故かウクレレが2台もあって、「禁じられた遊び」はウクレレで覚えましたから、ギターがやって来てもすぐに弾くことが出来ました。京本輔矩(きょうもとすけのり)先生の編集されたカルカッシギター教則本を少しだけ・・・、二長調くらいまでやって、すぐ飽きて、タレガの「ラグリマ」に挑戦。何となく弾けた気分になって、あとはレコードで聞いた曲を弾きたくて「名曲集」みたいなものを買ってきては、フレスコバルディの「アリアと変奏」、ラモーの「メヌエット」、フォルテアの「マラゲーニャ」、とにかく小遣いで買える楽譜は全て弾いて、それでも飽き足りなくて、学校の音楽の教科書に載っている歌や、ピアノ伴奏のパートを弾いたりしていました。中学の卒業式にはタレガの「グラン・ホタ」を弾いたのですが、今から思うと顔から火の出るようなものであったに違いありません。
 プロとして活動するようになって生徒が持ってくる曲をみて、「白鳥の歩み」「ヘンツェのノクターン」「マリアルイサ」こういった曲は、実は三十路を超えてから知ったのでした。そして「ああ、ギターってなんて良い曲があるんだろう!」と思ったのでした。そしてこういった曲がギターを勉強し、楽しむ為にとてもよく出来ていることにも感心しました。
 同じころスペインでギターを勉強し直して、子供の頃手当たり次第に弾いていたソルやカルカッシ、コストやメルツ、タレガやそれ以降の編曲作品も冷静に勉強し直して、こういった音楽家達が如何に周到に教本を作りあげ、作品を丁寧に作っているかに感動しました。それは私が子供の頃、とんでもなく貪欲に沢山の曲を勉強していたこと、そしてそれを改めて勉強し直す機会があったこと、によると思うのですが、もしも私が小学四年生の時に「白鳥の歩み」や「ヘンツェのノクターン」、「マリアルイサ」なんて言う曲に巡り合っていたなら、そしてこういう曲からギターを分かりやすく教えてくれる先生が側に居たなら、と時々思います。「誰もが奏でるギター名曲小品集」などと言いながら、実は私にとっては実に新鮮で、初めてコンサートで弾く曲も沢山あるのです。楽しいことです。

 

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