gfd
               

ESSAY

藤井眞吾のエッセイ《FORESTHILL NEWS》

- ESSAY -
FORESTHILL NEWS

Loading

藤井眞吾 エッセイ vol.1
再会  

 いつか、どこかで、そして誰もが「いちごいちえ」という言葉を耳にしたことがあると思います。「一期一会」と書きます。本来仏教用語のようで、「一期」は《人が生まれてから死ぬまでの期間》、「一会」は《法要などで集まり会う》という意味らしい。「一期一会」というこの言葉を最初に引き合いとしたのは、茶道の心得を説いた千利休の弟子「宗ニ」で、その著書《山上宗ニ記》に「一期に一度の会」とあるそうです。「茶会に臨むということは、その機会が一生に一度のことと心得て、主客ともに誠意を尽くさねばならない」というその教えは、ギタリストとして演奏をするようになった私の心の中に重く、深く残っていました。
 演奏会を茶会に例えるまでもなく、奏者としての自分が聴衆の方々と巡り合うのは「一期一会」、まさに全てにおいて誠意を尽くし、最善の努力を払おうと思っていました。同時に私自身と個々の作品との関わりにおいても、同様でありたいと覚悟していました。作品と巡り合い、そこで感じた感動を伝えること、そして毎回の演奏が「一期一会」でありたい、というのがごく最近までの信念でした。
 ところがこれは言わば、宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島での決闘、日露海軍の日本海決戦、はたまた若乃花対貴乃花兄弟優勝決定戦、アントニオ猪木とモハメッド・アリの異種格闘技対決、・・・みたいな緊張感に溢れていて、・・・しょうじき私、少々疲れました。
 最近とっても感動したことは、若いときに勉強した曲、昔演奏会で弾いていた曲を、20年ぶりとか30年ぶりに弾いてみると、「おお、やっぱり、ええ曲やないか!」と感じたことでした。ブローウェルの「舞踏礼賛」何て言う曲は、大学生の頃それこそ狂ったように練習し弾いていたものでしたが、30年経った今、久し振りに演奏会で弾いてみたら、やっぱり感じるのは同じく熱いもので、それを今になっても弾いている自分が妙にナチュラルに感じられて「う~ん、いいな~」と思ってしまったのです。
 そうだ、人生は「一期一会」ばかりじゃないんだ、「再会」することだってあるんだ! ・・・そう思ったとき、途端に気分が軽くなって、肩から力が抜けていきました。決闘のような物々しい不要な興奮もなくなりました。「やあ、またお目にかかれましたね」と作品に向かう快感を、是非若い方々にも実感していただきたいのです。ただし、ひとつだけ忠告をしておきましょう・・・。再度お目にかかって、快く迎えてくれる人というのは、ほとんどの場合、最初に会ったとき「一期一会」と思って会った人ばかりなのですね●×※!!♂▲。・・・人生とは、かくも難しいものです。

 

FOREST HILL NEWS
no.53 (2005.10.10)