2005年8月2日

藤井眞吾様

いかがお過ごしですか?前回のレポートからしばらくあいてしまいました。最近ようやくLIGITAの余韻からも覚めつつ、改めて藤井さんのホームページに載った自分の文章を読み直すと、如何に自分が興奮していて、時にあまり考えがまとまらないまま書き連ねていたかが見えてちょっと恥ずかしいです。元はと言えば、このドイツ便りも藤井さんとの私信であったということを再確認しながら、これからは書いて見たいと思います。

とはいえ、LIGITAのレポートを中途半端に止めるわけには行きません。何よりも僕が一番楽しみにしていたディヴィッド・ラッセルのコンサートの模様についてはまだ書いていませんでしたから。そこで今回は後半の3人のギタリスト(ディヴィッド・ラッセル、デイル・カヴァナー、アルヴァロ・ピエッリ)のコンサートについて書いてみます。

まず前半のハイライト、ディヴィッド・ラッセルのコンサートですが、マスタークラス同様、人気が非常に高いです。コンサートホールも一番キャパの大きいエッシェンのホールで行なわれました。寮で知り合った仲間の間でも彼のコンサートを楽しみにしていた人が多く、よい席を確保しようと早めに宿舎を出たのですが、腹ごしらえをしようとして入ったレストランが大外れ。注文したピザが中々出てこなくて、最後は折り詰めにしてもらって会場に駆けつけたときは、もう開演15分前。席は既に後ろの方まで満杯で、かろうじて後ろから3番目の席が空いていたのでそこに座りました。ディヴィッド・ラッセルはカブリツキで見てやろうと思っていた、僕や友人はガッカリです。さて、演目ですが以下のとおりです。

1. J. de Saint-Luc: Suite
2. N. Coste: Introduction et Polonaise
3. J. S. Bach: Chorale frome cantata 4, and 147
4. R. Sainz de la Maza: Rondena (Idilio-Petenera-Zapateado) Pause
5. E. Grieg: Seven lyric pieces
6. S. Assad: Eli's Portrait, Valseana
7. E. Pujol: Sequidilla, Tango, Guajira

ついに念願のディヴィッド・ラッセルを生で聴くことが出来ました。まさに完璧なギタリストと言った感じですね。決して冷たいと言う感じではないのに、どこか澄み切った演奏という印象を受けました。余分なものを全て殺ぎ落として集中して行くことにより、凄く純度の高い音楽が出来上がったとでも表現したらよいのでしょうか。そして、シュタイドル、福田さんと続いた19世紀ギターも良かったのですが、現代のギターの魅力を余す所無く伝えてくれる彼の演奏を聴くと、やっぱり普通のギターが良いなと少しホッとしました。コストやデラマーサ、アサド、プホールなどギターを知りぬいた作曲家達の曲を彼の演奏で聴くと、しみじみとギターって良い楽器だなと感じます。逆にそのせいでしょうか、ギターにアレンジされたバッハのカンタータには多少違和感を感じました。しかし、これは個人的な好みの問題でしょう。普段ギター音楽をあまり聴かない人も来るような彼のコンサートではこの様なプログラムも必要かもしれません。色々な意味でバランスの取れた円熟味のあるコンサートであったと思います。

続く翌日のデイル・カヴァナーは、これとはうって変わった雰囲気のものでした。僕は寡聞にして今回の5人のうちで、彼女の事だけは知らなかったのです。正直に言えば最初はあまり期待していなかったのですが、聴いてみてびっくり。これも良いコンサートでした。演目は、

1. C. Domeniconi: Trilogy
2. J. Rodrigo: Invocation et Dance
3. C. Domeniconi: Chaconne
4. A. Ruiz-Pipo: Cancion y Danza #1 Pause
5. D. Kavanagh: Briny Ocean Toss
6. H. Villa-Lobos: Cadenza from Guitar concerto
7. D. Kavanagh: Two etudes
8. D. Kavanagh: Contemplation, A la Fueco

とにかく元気一杯、パワフルなコンサートでした。明るくておおらかな演奏は、レッスンなどから伺える彼女の性格そのものの様な気がします。プログラムもダンス、ダンス、ダンスで、バリバリ弾くような曲の連続に暗さが微塵もありません。まるでロックコンサートのようなノリで、ヴィラロボスのかカデンツァでは一瞬ジミヘンのギターソロを聴いているような錯覚に陥りました。ロドリーゴやルイスピポ−もひたすら迫力で押し捲ります。しかし、決して荒っぽかったり早く弾いたりする演奏ではありません。テクニックも素晴らしいです。彼女の自作した曲も良くて、日本からやってきた朴葵姫ちゃんは「かっこいい!」を連発していました。彼女の話では来年初めて日本に行くそうです。まだ、日本ではあまり知られてない様ですが、特に若い人には受けそうなギタリストです。

そして、最後がこのフェスティバルの音楽監督も努めるアルヴァロ・ピエッリです。彼の素晴らしいレッスンを見てきて、彼のコンサートには大きな期待を寄せていました。こんどは早めに会場に行って前から2番目の席をキープ。この1週間続いた素晴らしいギターコンサートの数々のトリを務めるわけですから、生半可な演奏では許されないでしょう。そして、その期待に見事に彼は応えてくれました。演目は、

1. A. Barrios: Cuatro Piezas
2. Egberto Gismonti: Frevo, Central Guitar, Agua y Vinho
3. F. Moreno Torroba: Sonatina Pause
4. I. Albeniz: Preludio, Zorzico, Capricho, Sevillanas
(ここから、プログラムと演目が変わったのですが、ノートを取っていなかったので曲がうろ覚えです)
5. N. Paganini: Grand Sonata
6. E. Sainz de la Maza: 2 pieces
( たしかハヴァネラとアルバの鐘)
7. H. Villa-Lobos: Etude No. 4

彼の演奏もまたクラシックギターの魅力を余す所無く伝えてくれるものでした。どの曲もどちらかと言えばゆったりとしたテンポで弾かれます。フレーズの終わりにはしっかりと間をとって、音の余韻を楽しむかのようにじっくりと聴かせます。そして、その多彩な音色も決してこれ見よがしに使うのでなく、自然に上品に曲の中で配色されています。まさに極上のワインを味わうかのように、一つ一つの音をじっくりと聴かせてくれるのです。この時、彼がレッスン中によく言っていた「音をしっかり聴かせなさい」と言う事なのだとはじめて実感できました。勿論テクニックも完璧です。しかし、なによりもギターの魅力がその音色にあることをあらためて認識させられる演奏でした。そして、その暖かく包み込まれるようなコンサートに、じわりじわりと今でも感動の余韻が残るのです。

と、この様にしてLIGITAの(講師陣による)コンサートは幕を閉じました。そして、この5人の出身地を見ると世界中の異なる地域からやってきたことに気が付きました。同じギターと言う楽器でありながら、異なる文化的なバックグラウンドをもつ演奏家が、それぞれに個性的で素晴らしい演奏を聴かせてくれました。これも、また非常に稀な経験であったと今あらためて思います。

この他にも色々と感動的な出来事、特に近藤さんも含めた様々な人との出会いや、コンクールの事など話せば切りがありませんが、今回のレポートはこの辺で。それでは、また。

from A

 
 
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