2005年6月6日

藤井眞吾様

こんにちは。Heinsberg国際ギターフェスティバルのレポートの2回目です。今回はフェスティバル4日目のRoman Viazovskiy(ローマン ヴィアチョフスキー)のコンサートについて書いてみたいと思いますが、その前にこのフェスティバルについて、佐々木忠先生から簡単な経緯を聞くことが出来たので、それについて書いてみたいと思います。

まず、フェスティバルが行なわれたHeinsbergという町ですが、これはドイツ北西部のアーヘンから北へ少し行ったオランダ国境近くにある小さな町です。僕が住んでいるユーリッヒと町の規模は同じくらいのようでしたから、人口は10万人にも満たないのではないでしょうか。今回のこのフェスティバルはこの近辺に住むTheo Kringsと言う人がディレクター、そして今回演奏したViazovskiyが美術監督となって、町、銀行などの機関、市民の全面的協力により開催されました(今年が第1回目です。市民がどのように協力したかについては次回のコンクールレポートの時に書いてみたいと思います)。Viazovskiyはこの小さな町の音楽学校でギターを教えているのだそうです(ドイツではこの規模の町でも音楽専門の学校が存在します。さすがに音楽大国)。

フェスティバルの内容はコンクールと4名のプロ演奏家による演奏会、そして楽譜やギターの展示会ですから、一見するとこれと言って特別見栄えのするものはありません。しかし、市民と一体の協力関係を築くことによって、この一見変哲も無いフェスティバルが奇跡とも言える大成功を収めることになりました。そして、この成功がViazovskiyの素晴らしい音楽家としての力量に支えられていた事も確かであると思います。

そのViazovskiyのコンサートですが、演目は以下のとおりです。

1) K. Vassiliev: Three forest paintings
(1. The old oak, 2. The first snowdrops, 3. Dance of the forest ghosts)
2) L. Berkeley: Sonatina
3) J. Rodrigo: Sonata giocosa

pause

4) L. Brouwer: Hika
5) F. Kleynjans: A laube du dernier jour(最後の日の夜明け)
6) N. Koschkin: Introduction and vivace
7) R. Dyens: Hommage a Villa-Lobos

アンコール:E. Gismonti: Agua e vinho

さて、いつもなら1曲づつこんな感じであったと感想を書く所ですが、今回に関して言えばそれが出来ません。彼の素晴らしい演奏の後ではそんな瑣末なことが無意味に感じられます。ただ、ただ素晴らしかったとしか云い様の無いコンサートでした。間違いなくドイツに来てから聴いたコンサートの中ではベストの物でしたし、過去に僕が聴いたギターコンサートの中でも確実に5本の指に入ると思います。ギターのソロコンサートでこれほど興奮したのは久しぶりのことです。しかし、素晴らしいとばかり言っていてはレポートにならないので、僕の拙い文章力でどれだけ表現できるかわかりませんが、当日の模様を書いてみたいと思います。

まずプログラムの内容を見ていただくとわかりますが、やはり現代曲が中心です。前日のM−ぺリングもほど難解なものは少ないにしても、やはり一般にはあまりなじみの無い曲が並んでいます。このフェスティバルの特徴として、コンクール出場者以外の観客の多くはおそらく普段クラシックギターをあまり聴いたことのないHeinsbergに住む人々のではないかと思われます。この両極端な聴衆を満足させなくてはならない・・・それを考えると、中々強気の選曲ではないかな・・・。しかし、これは全くの杞憂でした。

会場は500人くらい入る中規模の簡易ホールでしたが、そこに立ち見が出るほどの盛況ぶり。Heinsbergの人々の彼に対する期待の高さが伺えます。ディレクターのTheo Kringsによる「今、観客の中には今日の予選の結果に緊張している人がいると思うけれど、もう一人楽屋で凄く緊張しているのがいるよ」と冗談交じりの紹介と共にViazovskiyが現れました。確かに多少緊張した面持ち。それもそうでしょう。このフェスティバルは彼のギターに対する想いと、その彼の才能に惚れ込んだTheo Kringsの情熱によってここまで漕ぎつけたのですから。その彼の演奏に対する期待とプレッシャーは相当のものだったはずです。

しかし、ひとたびギターを構えるとそんなプレッシャーを微塵も感じさせず、音楽に没頭して行く彼の姿がありました。顔を真っ赤にして、目の焦点も定まらずに陶酔しきってギターを奏でるのですが、その指はどんな難所に来ても全く破綻することなく、ひたすら音楽を紡ぎ出すことに専念されます。恐るべきテクニックです。大げさな表現は無いにも関わらず、情熱的で感情が湧き上がってくるような音楽に観客は身を委ねて浸りきっていました。演奏中のホールはまさに水を打ったような静けさです。演奏が終わると、観客は(比喩では無く本当に)総立ちとなりブラボーの嵐でした。ギターソロのコンサートで500人以上の観客が総立ちになるコンサートと言うのは僕は今まで経験したことがありません。まさに神憑り的な演奏でした。Viazovskiyのこのフェスティバルにかける気合が、まさにこの一点に集中され奇跡のような瞬間を生み出したのかもしれません。

Viazovskiyのプロフィールを見ると1974年生まれとなっていましたから、まだ若いギタリストですね。CDもまだ1枚しか出ていないようですし、これからが楽しみです。もし来日することがありましたら、お聴き逃しの無いよう!ぜひ一度聴いていただきたいギタリストです。

さて次回はコンクールの本選の様子をレポートします。予選をずっと審査してきた佐々木先生が「こんなにレベルの高いのはめったに無いよ」と仰っていました。僕は今回が、コンクールを聴くのは初めてなので、他と比べることは出来ませんが、なるほど皆、非常に高い演奏レベルでした。それでは、また。

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