2005年6月3日
藤井眞吾様
いかがお過ごしですか?以前のメールで述べていた(第1回)Heinsberg国際ギターフェスティバルについて何回かに分けてレポートしてみたいと思います。今回は昨日(6月2日)に行なわれたThomas
Mueller-Preingについてのコンサートレポートです。
このフェスティバル自体は5月31日から6月4日まで続きます。この5日間にコンクールと5つのコンサート(1つは最終日にコンクール優勝者による)が企画されています。件のT.M-Pのコンサートの前にもCarlo
MarchioneとZoran Dukicのコンサートがありましたが僕は仕事の都合上、聴きに行くことが出来ませんでした。さてぺリングのコンサートですが演目は以下の通りでした。
F. Sor: Fantasie Elegiaque Op. 59
H. Werner Henze: from 'Royal Winter Music'
(Sir Andrew Aguecheek, Ariel, Touchstone, Audrey & William,
Oberon)
Pause
T. Takemitsu: In the Woods
P. Lischewski: Summertime Nocturnal
演目を一見してわかると思うのですが、中々硬派(というか地味)なプログラムです。観衆の多くはギター関連の人だということを意識してのプログラムなのでしょうか・・・、妻を伴い聴きに来た一瞬不安になりました「ギターを普段聴かない(弾かない)人は、これで楽しめるだろうか・・・」。結果から言えば、何とか終わりまで観衆を惹きつけたぺリングの実力はさすがでしたが・・。
さて、1曲目のSorのFantasie Elegiaqueではシュタウファー作のオリジナルのロマンティックギターを用いていました。昨今のロマンティックギターブームの中で「トーマスよ、お前もか!」と言う気がしないでもなかったのですが、渋く詩情豊かに聴かせてくれました。しかし、ソルの中でも地味なこの曲を、さらにオリジナルギターで弾くとはなんとマニアックな!2m近くある彼がシュタウファーを構えると、ギターが殊更小さく見えます。逆に長い指が余って弾きにくそうだな・・などと余計な心配をしてしまいました。
つづくHenzeの「王宮の冬の音楽」ですが、正直言えば僕はこの曲があまり好きではありません。昔、ブリームのレコードを持っていて何度聴いてもピンと来ませんでした。残念ながら今回の演奏でも、その印象は拭えませんでした。ぺリングの演奏自体は色々と変化を試みていましたが、やはり地味と感じました。同様に感じている人も多かったのでしょうか、この曲の演奏中は咳払いなども多く、ちょっとイライラした雰囲気が漂っていたようです。
休憩の後はTakemitsuの「森の中で」ですが、これは凄く良かったです。ぺリングの端整なスタイルと、この曲の詩情はよくマッチしていたと思います。実はこの曲を聴くのは今回が初めてだったのですが、最後までダレることなく惹きつけられました。この日の演目中で、最も印象に残った曲です。
最後のLischewskiの曲はぺリングに献呈された曲でこの日が初演だったそうです。演奏前の彼の説明に寄れば、Lischewskiはこのギターフェスティバルが開催されているHeinsbergに住んでいるギタリスト・作曲家だそうです。確かに、この曲の初演にはふさわしい場と言えます。可笑しいのは、この曲のタイトル'Summertime
Nocturnal'と言うのはガーシュウィンの’サマータイム’をテーマにブリテンの’ノクターナル’のスタイルで書いた曲だからだそうです(よって、テーマは曲の最後に現れる)。こんなにヌケヌケとタイトルに使ってしまうとは!
ぺリングの演奏は譜面を見ながらで多少まだ硬さが残るものでしたが、地味な曲が続いたせいか、ジャズのリズムを随所に散りばめたこの曲は新鮮でした。傑作ではないかもしれませんが、中々の佳曲ではないでしょうか。最後は作曲者(まだ若い)もステージに上がって挨拶していました。
アンコールはビートルズの「イエスタデイ(武満編)」とアルベニスの「朱色の塔」でした。アルベニスは昔聴いたのと比べるとずいぶんラフな印象を受けましたが、アンコールとしてはこのくらいのリラックスした感じがちょうど良いのでしょう。全体的に硬派な曲が続いたので、これらのアンコールは清涼剤のようでした。
このコンサートの後には、コンクール一次予選の通過者の発表がありました。世界中から集まった80名近い参加者がこれで19名に絞られました。残念ながら日本人でこの予選を通過した人はいませんでした(2名ほど参加していたようです)。今日の昼間は二次予選が行なわれているはずです。その後にはRoman
Viazovskiyの演奏会があります。今夜はこれを聴きに行く予定です。この模様については次回まで。それでは。
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